“人”から進める変革
〜現場から語るチェンジマネジメントのリアル〜
変化の時代において、競争力の鍵は単なるテクノロジー導入ではなく「人がどれだけ変化できるか」。世界経済フォーラムの「2020年雇用の未来レポート」では、人的変容こそが未来の企業力の中核になると報告されています。(*)
DX、業務改革、グローバル展開など、企業における変革の波はこれまでになく大きく複雑になっていく中、注目されているのが「チェンジマネジメント」。本連載では、現場で実際に変革支援を行うチェンジマネジメントのコンサルタントたちが、プロジェクトのリアルや苦労、成功の鍵を語ります。全4回を通じて、変革を「人」から進めるとはどういうことか?を探っていきます。
(*) 出典:World Economic Forum, The Future of Jobs Report 2020, https://www.weforum.org/reports/the-future-of-jobs-report-2020/
メンバー紹介
今回の座談会に登場するのは、こちらの4名です。

【写真左から】
回答者:和田円香、多田羅勇一、根本佳代子(グローバルコンサルティング事業部プロジェクトマネジメント/チェンジマネジメント コンサルタント)
聞き手:笹岡慎介(チェンジマネジメント エデュケーション サービス セールスリード)
[第1回]チェンジマネジメントとはそもそも何か?その本質と活動の全体像
― 成功の定義から始まる「人」の変革支援とは ―
「プロジェクトを成功させる」とは何か?その問いに立ち返るところから始まる、人の行動変容の支援とは何か。支援の現場に立つコンサルタントたちの実体験と共に、変革支援の第一歩について聞いた。
「チェンジマネジメント」の解釈は各社各様
— 皆さんは、様々な変革プロジェクトにおいてチェンジマネジメントの活動を支援するコンサルタントとして従事されていますが、まず単刀直入にお伺いします。皆さんの言葉で、「チェンジマネジメント」とは何でしょうか?
根本: チェンジマネジメント活動と評されているものの、トレーニングとコミュニケーションだけ、とみなされているケースもよく見るのですが、それだけではないと考えています。「このプロジェクトはどういう状態になれば成功か」から定義して、成功に向かってプロジェクト全体やステークホルダーなどが適切なアクションを起こせるようにする様々なことを、“チェンジマネジメント”として私たちは捉え、取り組ませていただいています。
— それはある特定の人たちだけに向けて支援をするのではなく、プロジェクトに関わる幅広い人全体の支援をされているという理解であっていますか?
根本: はい、その通りです。チェンジマネジメントチームがステークホルダーに直接アプローチする場合もあれば、経営・シニアマネジメント層や、社員にとってのスーパーバイザーとなる中間層にアプローチし、間接的にステークホルダー全体に展開する場合もあります。特に、経営・シニアマネジメント層の協力とリーダーシップの発揮をサポートすることが、チェンジマネジメント活動をするうえで非常に重要です。
最初に行うことは「成功の姿」の確認
— お客様側のチェンジマネジメントをリードされている方がよく悩まれていることや、その方々から受ける相談はどのようなものがありますか?
多田羅: プロジェクトを始める前は、“何から始めたら良いかわからない”、“どう相談したら良いかわからない”、といった悩みを伺うことがよくあります。また始めてからは、“具体的に巻き込みたいマネジメントからの協力が得づらい”、もしくは“どうしたら組織に情報を効果的に伝えられるか”といった相談があるように感じています。
— お客様から受ける相談は、プロジェクトの段階やフェーズごとで異なると理解しましたが、最初の何から始めていいかわからない場合はどのようなご支援からされるのですか?
多田羅: 関係者が、“チェンジマネジメントとは何をしてくれるものなのか?”と疑問を持ちながらプロジェクトが始まることもあります。そのような時は、「チェンジマネジメントとはどのような考え方で、何を目標にどういったことをする取り組みなのか」という、チェンジマネジメントチームがやろうとしていることを丁寧に説明し、理解していただくところから始めます。ここを疎かにするとその後の具体的な内容が全く入ってこなくなってしまうので、当たり前ですが意外に重要なポイントです。
その後、プロジェクト立ち上げ時では、”このプロジェクトは何を目指しているか?”といった、プロジェクトの動機に立ち返りながらのゴールや目標の再確認は必ず行います。
これまで多くのチェンジマネジメントプロジェクトを支援してきた経験上、誰かが作ったプロジェクトのゴールや目標は存在していても、曖昧な表現が用いられ、漠然としていて具体化されていないことも意外と多いです。また、プロジェクト関係者の誰もが同じ理解ができるような表現になっていないことも多いです。マネジメント層や管理職層など、一部の人は理解しやすいものの、組織全体で同じ目標をイメージできるか?同じゴールを想像できるか?というと、そのようになっていないケースも多く、改めて整理して言語化するところは大切なステップになります。
和田: 日本国内における変革は、つい最近まで、制度やプロセス、システムやツールを作ることがゴールだと感じるプロジェクトが多くありました。が、昨今はソリューションが日進月歩で進化しており、それらを導入したその先にある自らの姿がわかりにくい状態になっていると感じます。例えばDXを推進した先に得られるデータをどう活用することでどのようなベネフィットを享受したいかといった成功の姿について、ある程度具体的な共通理解がないまま進めていくと、ゴールが見えなくなるということが起きるのではないでしょうか。どこに到達したらゴールなのかが分からない場合、変革の管理も本質的にはできないということになりますので、まずそこをクリアにしようという動きが最初に発生します。
— そうすると、プロジェクトの開始前や開始初期段階で、その変革をなぜ行うのか、どういう段階でどうなっていたいのかについてしっかり定義をするところから始めるという理解で正しいでしょうか。
和田: “成功の定義”については、プロジェクトが始まる前にプロジェクトを立ち上げたリーダーやそれを補佐するチームが議論を重ねてきているものだと思いますが、様々な視点から質問することで、これを具体化、明確化、聞き手の立場で言語化する部分については、チェンジマネジメントが関与する初期の重要なステップであると考えています。
— その言語化されたものを、PMやマネジメントだけではなく、もっと幅広い様々な方を巻き込んで共通理解を促していくわけですね。
和田: その通りです。例えばお2人は、この辺りに特に重きを置いたプロジェクトに参画されていると思いますが、何かエピソードを紹介いただけますか?

次回は、「総論賛成・各論反対の壁の乗り越え方」に迫ります。
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スケジュールや予算を守り、仕組みや環境もしっかり準備できているにもかかわらず、当初の 期待とはほど遠い結果になってしまう変革案件が後を絶ちません。目指してきた姿と結果に ずれが生じてしまうのはなぜでしょう。変革の過程で生まれる新しい考えや求められる動きを 一人ひとりの社員が適切に受け入れ、その中で自身がどうすべきかを理解し実践できること。 それこそが変革本来の姿であり、チェンジマネジメントを行う理由でもあります。