デジタルトランスフォーメーション 成功への鍵Digital Transformation and the Crucial Elements for Success
by Isabella Brusati
この10年、競争力を獲得し、それを維持して優位に立つためには、多くの組織はデジタルトランスフォーメーション(DX)が最優先課題であるとずっと認識してきました。COVID-19のパンデミックで変化のスピードは加速し、全組織がリモートで仕事をするなど、2019年時点では想像も出来なかったようなことが普通のこととなりました。しかしビジネス界において、これほどまでにDXが関心を集め、存在感を増しているにもかかわらず、DXとは何なのか、DXに付随するものが何であるかということについては混乱が見られます。特に問題なのは、その混乱ゆえに、組織はせっかく導入したテクノロジーの受け入れと活用に、未だ苦労しているということです。チェンジマネジメントや変革における人的側面の管理は、この問題に対処する重要な考え方です。
DXとは何か?
パンデミック初期の頃、マイクロソフト社CEOのサティヤ・ナデラ氏は、世界は2年分のDXをたった2か月で目撃した、と言いました。「リモートでのチームワークや学習体験、営業、カスタマーサービス、重要なクラウドの整備やセキュリティに至るまで、私たちは毎日、顧客に寄り添い、全てがリモートに切り替わった世界においてもビジネスを持続できるよう手助けしています」と彼は語っています。
ナデラ氏のコメントは、多くの組織の思いと同じです。何故ならば、私たちの多くもフルリモートワークを実現するために重要なテクノロジーを即座に導入しなければならなかったというDXを経験したからです。しかし残念ながら、多くの組織はDXの一側面である「テクノロジー」にしか目を向けていませんでした。
では、DXがテクノロジーの導入だけではないと言うならば、DXとは一体どういう意味なのでしょうか。
- スタンフォード大学によれば、DXはビジネスプロセスの小規模な改修といった類のものではありません。それは、ビジネスモデルを根本的に見直し、ビジネスのやり方を根本から変えることによって変革をもたらすものです。
- セールスフォース社は、DXとは、変化するビジネスと市場の要請に応じるために、デジタルテクノロジーを使い、ビジネスプロセス、組織文化、カスタマーエクスペリエンスを新たに構築する、あるいは既存のものを改修するプロセスと定義しています。デジタルの時代にビジネスを見直すことがDXなのです。
- ガートナー社は、DXを、デジタル技術と支援機能を活用して、強固で新しいデジタルビジネスモデルを創造するプロセスと説明しています。
これらの定義には、一致する重要な要素があります。DXは、会社や組織全体のビジネスモデル全体に関わるということです。組織内において人が仕事のやり方を変えるということ、つまり究極的には組織文化の変革ということになるので、DXはテクノロジーの枠にとどまらないのです。これが、DXの成功を難しいものにしているのです。
デジタライゼーションとDXの違いは、前者が既存のビジネスプロセスや業務ワークフローにテクノロジーを導入することを意味しているのに対し、後者はこれらのビジネスプロセスや業務ワークフローを新しいデジタル的な手法で再構築することなのです。
DXとデジタイゼーションとデジタライゼーション
DXとデジタイゼーション(Digitization)とデジタライゼーション(Digitalization)の違いについても混乱が生じています。これらの用語はしばしば混同されますが、それらは異なる意味を持っており、単なる表現の違いではありません。それぞれがもたらすベネフィットは大きく異なります。
デジタイゼーション(Digitization)は、アナログからデジタルにフォーマットが変わるプロセスです。古典的な例では、手書きの文書をデジタル文書に変換することなどです。DXと異なり、デジタイゼーションは、プロセスは変わらず、情報のみに着目し、それが単に自動化されたということになります。デジタイゼーションは、コストを削減しつつ、生産性と効率性を向上させます。
デジタライゼーション(Digitalization)は、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルを変革し、収益や価値を生むような新しい機会を創出します。言い換えれば、デジタルビジネスへ移行するプロセスです。デジタライゼーションをすれば、テクノロジーによりデジタルデータを特定の方法で活用することができ、その恩恵で既存のプロセスやビジネスモデルが最適化されます。デジタライゼーションの例としては、PDF文書を組織の他のチームと共有してみんなでデータ分析できるように、パソコンのハードディスクではなくクラウドへアップロードすることなどがあります。
DX(Digital Transformation)は、デジタイゼーションとデジタライゼーションの両方を必要とします。重要な違いは変革の部分です。つまり、長期的な競争優位性を創造し、市場で成功して優位性を維持するためにどうするかということです。
DXとは、企業が既に行っていることをデジタイゼーションすることでもなく、既存のビジネスにテクノロジーを導入してトランスフォーメーションを目指す(デジタライゼーション)ことでもありません。DXとは、独創的でパーソナライズされた顧客体験を提供することで、企業がどのように価値を創造し、競合他社と差別化するかを再定義することなのです。新しいテクノロジーを別々に導入するのではなく、新しいテクノロジーを組み合わせることで新しい能力を獲得し、発明の速度が上がり、デジタルトランスフォーメーションが実現されます。
「DXとはビジネスのやり方を絶え間なく変革していくプロセスです。その実現には、スキル、プロジェクト、インフラ、そして往々にしてITシステムの見直しといった基盤投資が必要です。人々の交流、機械やビジネスプロセスの入れ替え、そして、それに付随する様々なゴタゴタをも乗り越えて行くことが必要です。」
―マサチューセッツ工科大学MBA(スローン校) ジョージ・F・ウェスターマン教授
DXにおける重要な課題
DXとデジタイゼーションとデジタライゼーションの混乱が、DXが持つ2つの重要な課題のうちの1つです。多くのエグゼクティブは、デジタイゼーションやデジタライゼーションを進めれば、DXをやっていることになると勘違いしています。既存のプロセスや仕事の流れを自動化すれば、コスト削減にはなるでしょう。しかし、それではビジネスモデルや仕事のやり方を根本的に変革することはできません。組織が期待通りの投資利益率(ROI)を達成できないのは、このような理由によるのです。彼らは、1つないし複数のデジタイゼーションを実施すれば、DXを成し遂げられると見ているのです。それでは、不十分なのです。DXでは、組織内の文化と業務を変革していくことが求められているのです。
この課題は、二つ目のDXの課題とも関連します。リーダーたちは、テクノロジーにのみ目を向ける傾向があります。私が顧客とDXについて話をすると、AI、IoT、ロボティックス、3Dプリンター、ブロックチェーンなどの新しいテクノロジーの設計、開発、導入ばかりに彼らの気持ちが行っていることが珍しくありません。テクノロジーが重要なのは、間違いありませんが、それは両輪の片方にしか過ぎません。DXを成功させるには、最先端のシステム、ソフトウエア、プラットフォームだけでは不十分なのです。
最終的にDXを成功させるには、テクノロジーがもたらす機会を活かすような組織の変革にも目を向ける必要があります。テクノロジーのもたらす力を十分に引き出すためには、会社は、変革によって影響を受ける一人一人をサポートしていく必要があります。そうすることで、個人が、新しい商品、サービス、顧客体験を提供するために必要な、新しいテクノロジーの受け入れと活用、考え方の切り替え、求められる重要な行動様式の習得が出来るようになるのです。これは、リーダーたちが変革における人的側面に目を向ける必要性を意味します。
チェンジマネジメントとプロジェクトマネジメントを統合する
チェンジマネジメントとプロジェクトマネジメントの領域は、どちらもDXにおいて果たす役割がありますが、ProsciのUnified Value Propositionが示しているように、2つの領域を効果的に統合することで、プロジェクトの成功や投資利益率(ROI)を実現できます。
典型的に、組織のリーダーたちは、DX(だと思い込んでいるもの)に取り組む際、技術的な側面、設計、開発、ソリューションの提案に目を向けます(例:新しいアプリケーション、クラウドへのファイルのアップロード)。彼らは、技術的な側面が整ったのだから、自動的に末端の社員まで飛躍的な改善が見られるはずだと考えがちです。
しかしながら、ソリューションが最先端であっても、それだけでは不十分なのです。企業は、変革の人的側面に目を向けることが必要です。影響を受ける社員が新しい仕事のやり方を受け入れ、新しい仕事を効率的に行うためには、変革の行程において支援を必要とします。組織文化の変革と顧客中心の体験に、とりわけ焦点を置く必要があります。
チェンジマネジメントを始めるには
Prosciの方法論を活用すれば、組織は変革を成功裏に管理することが可能です。影響を受ける社員がADKARの行程を進むために支援をし、Prosci3フェーズプロセスを使って組織変革を進めることができるからです。
Prosci ADKAR Model
DXを始める際、計画の段階でチェンジマネジメントを組み入れることが最も有効です。あなたが担当しているプロジェクトが既に進行していても、あるいはもうシステムが導入されていたとしても、チェンジマネジメントは有効です。変革の人的側面の気運を高め、まずは身近な成果を得るために、次のようなことを検討してみてください。
1. あなたの組織が目を向けているのは、デジタイゼーションなのかデジタライゼーションなのかDXなのか見極めましょう。また、それが果たしてエグゼクティブの意図に沿ったものなのかを評価しましょう。
組織のリーダーたちが、3つのコンセプトや各コンセプトがもたらすものについて誤解しているようであれば、組織に対して研修を行い、これらのコンセプトを間違って導入した場合の弊害を説明しましょう。そして、リーダーたちに自分達の目標や展望を再評価するよう促しましょう。
2. 組織が変革の技術的な側面にばかり目を向けていないか、見極めましょう。
その場合、チェンジマネジメントの事例などを活用し、DXを成功させたいのならば、なぜ変革の人的側面が重要であるのかを説明しましょう。テクノロジーだけの話ではないのです。人を巻き込む必要があるのです。
3. プロジェクトマネジメントとチェンジマネジメントを統合しましょう。
影響を受ける個人が新しいソリューションを受け入れて活用し、自分たちが働く組織が新たに提供する顧客体験に適した考え方や行動様式を身につけることは重要です。プロジェクトマネジメントとチェンジマネジメントの統合がそれを可能にします。
DXとチェンジマネジメント
DXとデジタイゼーションとデジタライゼーションの違いを理解することは、とても重要です。それは単なる表現の違いというだけではなく、それぞれの取り組みの正しい戦略と展望を持つということです。DXを成功させるためには、変革の技術的側面と、変革において影響を受ける個人の人的側面の、両面に目を向ける必要があります。効果的なチェンジマネジメントの考え方を活用すれば、変革のプロセスを歩む個人を支援することが出来ます。また、彼らがテクノロジーを受け入れて活用し、日々の仕事において様々な変革に対応できるよう支援できます。その先に見えるのは、優れた受け入れと活用を伴うDXの成功や投資利益率(ROI)の向上、組織文化の前進です。
【無料】チェンジマネジメントの基礎知識
組織の変革プロジェクトが技術要件とマイルストーンを満たしていたとしても、目標と成果を実現できない可能性があります。これは何故でしょうか? 答えはチェンジマネジメントです。チェンジマネジメントを採用している組織は、予定どおりまたは予定より早く、予算内で、プロジェクトの目標を達成する可能性が高くなります。これは、データからも明確に示されています。
著者:イザベラ・ブルサティ (Isabella Brusati)
イザベラ・ブルサティは、Prosciの認定アドバンスインストラクター資格(PCAI)を持ち、英国、アイルランド、イタリア、シンガポールに展開しているCMCパートナーシップグローバルの社員です。イタリアのチームリーダーとしてイザベラは、20年にわたるチェンジマネジメントの成功実績を活かし、世界各地の顧客に対して、DXなどの取り組みを支援しています。ブログ、ウェビナーを頻繁に発信し、講演会やゲストスピーカーとしても活躍しています。また、顧客に対して、効果的な変革リーダーを育てる教育も熱心に行っています。