プログラムマネジメントにおいてチェンジマネジメントが重要である理由Why is Change Management Important for Program Management?

by Angelo McNeive

現在、多くの組織がかつてないほど複雑で技術的に困難な変革プログラムに直面しています。またその多くのプログラムは相互依存的です。プロジェクトチームは複数の変革を同時に進めるプレッシャーにさらされており、その結果、ベストプラクティスが軽視され、変革プロジェクトが技術的および人的な様々な問題に直面するリスクが高まっています。こうした課題に対処するためには、変革をプログラムレベルで管理する必要があります。

プログラムマネジメントとは何か


プロジェクトマネジメントの機能を有する組織は、似たプロジェクトを一つにまとめて「プログラム」として管理し、業務を連携させることで、より多くのベネフィットを享受できます。これにより、コストを抑えつつ大規模な管理を行い、効率性を高めることが可能です。変革プロジェクト、プログラム、サブプログラムやオペレーションを戦略的に一括管理する”ポートフォリオマネジメント”とは異なり、プログラムマネジメントは相互に関連する変革プロジェクトから単一のベネフィットを生みだすことを目指してます。

変革プログラムの例

  • デジタルトランスフォーメーション(DX) — ERPの導入、デジタル化、ハイブリッドな職場モデルにより、組織の効率性とアジリティを向上させる
  • 持続可能性 — エネルギー効率、経済循環、リサイクル、脱炭素的な企業文化を推進し、より持続可能な組織を構築する
  • 新しいオペレーションモデル — 組織やサービスのリモデリング、トレーニング、採用、ITプロジェクトにより、新しい組織のモデルを構築する
  • 組織文化の変革 — DEI、社員満足度、採用、トレーニングなどを通じて、人中心の組織文化を築く

プログラムレベルにおけるチェンジマネジメント


個々の変革プロジェクトをプログラムレベルで総合的に管理しないと、タイミング、相互依存性、リスク回避、リソース制約、全体の予算などの課題に適切に対処できません。プログラムマネジメント的視点は、ガバナンス、役割分担、実務、ルーティンなどを考慮するので、変革プロジェクトに戦略的かつ大局的な視野をもたらします。このような視野があれば、チェンジマネジメントにとってプラスになり、逆にその不足はリスクとなります。

組織にはさまざまな事情がありますが、特に以下の2つシナリオは様々な組織で散見されます。

1. 組織はプロジェクトとプログラムの違いを認識しているが、プログラムマネジメントの能力が不足している。


組織が変革プロジェクトを実施する際、プロジェクトマネージャーは個々のプロジェクトに焦点を当てる傾向があります。しかし、これでは相互依存の利点を最大限に活用することができず、問題がプロジェクトRAID(リスク、行動、課題、意思決定を評価するツール)によって明らかにされるまで、リスクが増大する可能性があります。これはチェンジマネジメントを複雑にし、プログラム全体の成功に影響を与える可能性があります。

そのリスクとは、例えば、複数の変革プロジェクトが同時に実施されることで、グループや組織全体に与える影響がますます大きくなることに対する認知不足かもしれません。あるいは、複数の変革プロジェクトがばらばらに進行することで、社員が適切に関与してくれなかったり、現場レベルで抵抗が発生するといった人的側面のリスクの増大を看過してしまうことです。

2. 組織はプログラムレベルでプロジェクトマネジメントの能力を開発しているが、チェンジマネジメントの能力を構築するには時間がかかる。


一部の実験的なプロジェクトから始め、組織は徐々にチェンジマネジメントの能力構築に取り組みます。変革プログラムを進めることで、その重要性をますます認識するでしょう。

これらのシナリオに関わらず、プログラムレベルでのチェンジマネジメントの能力開発は、成功への道を切り拓く手段です。

プロジェクト vs. プログラム

プロジェクト プログラム
特徴
  • 成果物を目指す
  • 始点と終点が定義されている
  • 範囲やスコープが規定された成果物がある
  • 製品や成果を提供する
  • プロジェクト終了後にベネフィットを実感できる
  • 短期間で終了する
  • あるべき最終的な姿を目指す
  • 行程が事前に定義されていない
  • ビジネス能力に変革をもたらす
  • 製品と成果を連携したり統合する
  • プログラムの途中も終了後もベネフィットを実感できる
  • 長期間かかる
  • 重点管理項目
  • 詳細な方法(How)
  • 成果物を作るためのアクティビティの管理
  • ハイレベルでの目的(Why)
  • ステークホルダー管理
  • ベネフィットの実現
  • 相互依存性の管理
  • 移行管理、変革の受容
  • 企業戦略との統合
  • プログラムマネジメントとチェンジマネジメントの統合


    プロジェクトマネジメントインスティテュート(PMI)が推奨するプログラムマネジメントの5つの重点課題を考慮すると、プログラム戦略はより確かなものとなります。これらの重点課題には、戦略の調整、ベネフィットの管理、ステークホルダーの関与、プログラムのガバナンス、ライフサイクルの管理です。

    1. 戦略の調整


    これは、プログラム内の全てのプロジェクトが組織の戦略にしっかりと合致することを意味します。プログラムの目標が組織の戦略目標と一致していることが重要です。また、ビジネスケースやプログラムのロードマップ、リスク管理などの要素がチェンジマネジメントの観点から適切に評価されているかも確認する必要があります。

    多くの組織はここ数年で変革の数が増え、変革疲れに直面しています。それでもなお、多くの組織がデジタルトランスフォーメーションに取り組もうとしています。変革マネージャーは、これらの変革がチェンジマネジメントの観点から適切に準備されており、抵抗が予測されるなどの重要な問題が考慮されていることを確認する必要があります。これらの問題は初期段階から明確にしておくべきです。

    プロジェクトや個々のプロジェクトを検討する際、プログラムのビジネスケースや、チェンジマネジメントを適切に活用しているかどうかも考慮すべきです。変革プロジェクトの重要性を訴える際やプログラムの優先順位をつける際に、チェンジマネジメントの観点から検討することが重要です。

    2. ベネフィットの管理


    プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメントの視点から見ると、組織はここ数年でますますベネフィットの管理に力を入れるようになってきました。しかし、まだ「導入すれば成功」という考え方が一般的です。変革マネージャーは、リスク評価を行い、プロジェクトと同様にプログラムも人的側面に依存することを強調する必要があります。

    プログラムを計画し、プロジェクトを構成する際には、全てのベネフィットを考慮する必要があります。ベネフィットマッピングを活用すると、各種プログラムから成るプロジェクトがどのように人々に依存して単一のベネフィットを生むのかを視覚化し、足並みを揃えるのに役立ちます。プログラムが進行するにつれて、ベネフィットの受け入れと活用の度合いを監視し、個々のプロジェクトレベルでベネフィットが持続しているかどうかを確認しましょう。

    3. ステークホルダーの関与


    プログラムにおける戦略的な関与と、個々のプロジェクトにおけるステークホルダーの関与は異なります。最初の3カ月間に、影響をうけるグループに対してバラバラと4つのプロジェクトのアンケートを行えば、負担が集中し、適切な回答が得られない可能性があります。プログラムレベルでのチェンジマネジメントの視点を持つことで、アクティビティを効果的に計画し、プログラムレベルでもプロジェクトレベルでもステークホルダー関与の効果を理解することができます。

    4. プログラムのガバナンス


    まず、適切な方針のもとで適切な実務が行われているかを観察しましょう。プログラムを実施する際には、チェンジマネジメントに固有の一貫した言語、方法論、ツールが用意されているでしょうか。それぞれが独自のアプローチで行われていないか注意してください。また、人的側面のデータや識見を定期的に収集していますか。プログラムのガバナンスを定義する際に、チェンジマネジメントの観点を考慮しているでしょうか。

    例えば、プログラムがきちんと機能していることを前提に、プロジェクトの健全性評価を行いましょう。単に技術的なソリューションの品質やベネフィットにばかりに注意が行き、チェンジマネジメント的視点を欠いていないでしょうか。

    また、構造、役割、責任についても同様です。プログラムマネジメントが確立されている場合、プログラムオフィスがプログラムマネージャーの指揮下であり、個々のプロジェクトマネージャーを管理できるでしょう。このプロセスにはチェンジプラクティショナーも含まれているでしょうか。チェンジマネジメントのリソースはどこに配置されているでしょうか。どのような役割、仕組み、ガバナンス設計が人的側面の観点からプログラムを支援するために行われる予定でしょうか。各プロジェクトの終了時に人的側面のパフォーマンスが適切であると判断する基準が設けられているでしょうか。プログラム全体でもその評価が可能でしょうか。どの段階で完了したと判断できるでしょうか。

    5. ライフサイクルの管理


    仮に、この5年間で100の変革プロジェクトを展開する場合、ある程度まとめて、期間を区切って展開すべきでしょう。その後、変革プログラム内の個々のプロジェクトやまとめたプロジェクトのライフサイクルを考慮しましょう。チェンジマネジメントの観点から、影響、抵抗、変革の飽和状態、変革の重複について理解しているでしょうか。また、テクノロジーの活用、期待されるベネフィット、戦略的目標について議論しているでしょうか。まとめた内容や各プロジェクトについて優先順位をつけ、タイミングを決定する際に、これらの要素をどのように活用しますか。

    これらの個別のライフサイクルを、必ずチェンジマネジメントの視点で定義してください。一つのプログラムが終わったら、チェンジマネジメントの観点でも成功を評価しましょう。また、次のプログラムに移る前に、前のプログラムが持続しているか確認することが必要です。次のプログラムでもチェンジマネジメントプランが準備されているでしょうか。効果的なチェンジマネジメントが行われていれば、プロジェクトのタイミングについて戦略的な議論が可能になります。

    プログラムレベルでチェンジマネジメントを展開する


    組織のプログラムマネジメントの成熟度によって、チェンジマネジメントとプログラムマネジメントを統合できるかが異なります。まず、プロジェクトとプログラムの展開の違いを理解し、プログラムを一つの大きなプロジェクトとして扱うのは避けましょう。そこから、チェンジマネジメントの明確なプランを組織に提示することで、プログラムとプロジェクトの両方で成功を収めることができます。

    プログラムマネジメントにおいてチェンジマネジメントの課題に対処する


    プログラムレベルの変革を効果的に管理できるかは、組織のプロジェクトマネジメント、プログラムマネジメント、チェンジマネジメントの成熟度に依存します。最近では、これらの3つの領域を同時に開発しようとする組織もありますが、これは非常に難しい課題です。まず最初に、以下の点で改善を図りましょう。

    • 早い段階でチェンジマネジメントについて議論しましょう。理想的には、ビジネスケースを開発する段階で行います。人的なベネフィットがプログラムのベネフィットに直結するようにしましょう。
    • プロジェクトとプログラムレベルのベネフィットを最初に定義しましょう。プロジェクトマネージャー、プログラムマネージャー、チェンジマネージャーの役割と責任も明確にし、これらの役割がどのように協力するかを定義しましょう。
    • 組織全体で、一貫したチェンジマネジメントの言語、方法論、プロセス、ツールを使用しましょう。
    • 個々のプロジェクトとプログラムレベルでのリスク評価、受け入れと使用の指標、人的側面の影響、飽和状態、ステークホルダーの関与プランなどの情報を収集しましょう。

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    変革力の構築とは、あなたの組織全体にチェンジマネジメントの考えを行き渡らせ、全ての人と全てのプロジェクトに組織のベネフィットを実現させることです。変革力を構築した組織は、チェンジマネジメントが核となるコンピテンシーであることを理解しており、ビジネスのやり方に重要な役割を果たしています。

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    著者:アンジェロ・マクニーブ (Angelo McNeive)
    アンジェロ・マクニーブは、Prosciのパートナーであるアイルランド、ダブリンのSTEPSTONEコンサルティング社の共同設立者でチェンジプラクティスのトップです。彼は過去20年間、数千人のプロジェクトマネージャーやチェンジマネージャーにトレーニングやアドバイスを提供してきました。質の向上に注力し、組織がより人間性に満ちたものになるよう、チェンジマネジメントとプロジェクトマネジメント能力の向上を支援しています。アンジェロは、公共事業団体、専門サービス、エンジニアリングサービス、金融サービス、エネルギーやその他の業界において、アイルランドやヨーロッパで広く、顧客の支援を行ってきました。彼は、産業心理学のMBAと修士号を持ち、アイルランドの公認心理士であり、CIPD(HR専門家のための公式の協会)の公式会員でもあります。