HR(人事部門)のためのチェンジマネジメントChange Management for Human Resources Professionals

by Tori Tipton

切れ目のない効果的なチェンジマネジメントのプロセスは、あらゆる組織にとって理想的なソリューションです。しかし、これは容易なことではありません。HR(人事部門)をチェンジマネジメントのプロセスに巻き込むことで、多くの課題を克服することができます。

変革に対する抵抗、コミュニケーションの断絶、組織文化の不一致などは、チェンジマネジメントの成功を左右する要素の一例です。しかし、HRが積極的にチェンジマネジメントに関わり、体系的なアプローチを活用することで、社員一人ひとりを導き、障壁を乗り越えることができます。また、HRの支援によって社員の変革への賛同を促し、ビジネスリーダーたちが変革を遂行しやすくなります。

この記事では、チェンジマネジメントにHRを効果的に巻き込む方法を説明します。

HRチェンジマネジメントとは何か?


チェンジマネジメントとは、新しい仕事のやり方を模索し、適応するプロセスです。HRがこの変革の人的側面をサポートすれば、社員は支援され準備が整っていることを実感し、変革を受け入れやすくなります。

チェンジマネジメントのプロセスでHRが担う役割は以下の通りです:

  • 変革の準備状況の評価:社員が必要なスキルや能力を持ち、変革に適応できるかを確認します。これらの領域にギャップがある場合、そのギャップを埋める対策を講じます。
  • コミュニケーションの実施:どんな変革が起きているのか、なぜそれが必要なのか、日々の業務にどう影響するのかを社員に説明します。
  • トレーニングの提供:変革に必要なトレーニングを提供します。例えば、新しいHRシステムを導入する場合、HRがトレーニングの機会を設け、機能を説明し、休日願いの出し方、個人情報の検索方法などを教えます。
  • 変革の影響の評価:進捗状況を測定し、成功を評価し、改善箇所を明確にします。計画から逸れていれば軌道修正を行います。
  • 抵抗の管理:社員の懸念を解消するには、変革の価値を説明し、ステークホルダーの賛同を促します。これは、チェンジマネジメントにおけるHRの重要な役割です。変革は全員が参加してこそ成功します。これがHRの目指すところです。

組織の変革期において、HRはサポートシステムであり、ガイド役となります。

チェンジマネジメントにおいてHRが重要な理由


なぜチェンジマネジメントにおいてHRが重要であるのかを見てみましょう。

  • 変革プロセスにおいてマネージャーのガイドとなる:変革のマネジメントや新しいプロセスを導入する際、HRチームはマネージャーに対して有益なサポートやガイダンスを提供できます。効果的な変革のマネジメントを行うための知識、ツール、スキル、抵抗が起きやすい領域について助言し、その克服方法を提案します。
  • 円滑な移行を実現する:変革のマネジメントに失敗すると日々の業務に支障をきたします。例えば、新たなCRMの導入は業務に混乱や遅延を生じさせます。しかし、HRが効果的なチェンジマネジメントを適用すると、混乱を最小限に抑え、ビジネスが円滑に進むようになります。
  • 社員の賛同や関与を促進する:効果的なチェンジマネジメントには、社員の賛同と関与が不可欠です。特に多くのチームや部門がある企業では、一人ひとりが参加しなければ効果的な変革は期待できません。HRが介入することで、社員が変革を受け入れやすくなります。時間を追うごとに、社員の受け入れ態勢が進み、組織全体でプロセスが動き出します。

チェンジマネジメントにHRが関わることは重要です。移行が円滑に進み、社員の積極的な関与が期待できます。効果的なツールや戦略を活用することで、HRが効果的に変革を進め、組織の目標達成を支援することができます。

HRチェンジマネジメントの課題


HRがチェンジマネジメントに関わる際の典型的な課題を以下に示します。

変革プロセスの初期に参加しそびれる


Prosci®の調査によれば、変革プロジェクトの初期にチェンジマネジメントを導入しないと、後にHRがその埋め合わせをする羽目になります。プロジェクトマネージャーやチームリーダー、エグゼクティブたちは、しばしば変革の人的側面を見落としがちです。その結果、HRが人的側面に対処することになります。多くの場合、HRが変革プロジェクトに加わるのが遅すぎ、中途や最終段階で呼ばれ、混乱を収拾することになります。

リーダーシップからのサポートが欠如する


リーダーシップからの支援なしでは、HRがチェンジマネジメントのプロセスをサポートするのは困難です。変革に対するビジョンが弱く、目的も明確でないため、組織全体にその意図を伝えることが難しくなります。

コミュニケーションの問題が発生する


特に発展途上の企業では、明確なコミュニケーションの欠如が誤解の元になります。

HRはしばしば、チェンジマネジメントチームと社員との橋渡しをしなければなりませんが、コミュニケーションの問題は大きな障害になります。例えば、変革のスケジュールに変更が生じた場合、それを社員に伝えることが難しくなり、社員に悪い印象を与えてしまい、彼らの変革への賛同や関与を期待しにくくなります。

組織文化に由来する抵抗が生じる


HRは人と直接関わる立場にあり、組織文化の転換期には人々の抵抗に直面します。社員が現行の文化に馴染んでいる場合にはよく見られることです。ビジネスや組織が急成長している時には、HRもそのスピードについて行けず、対応が遅れることがあり、これがさらに人々からの抵抗を受けやすくします。

HRは、このような状況で組織文化の変革の意義を丁寧に説明し、不安を払拭し、長期的には個人にとっても有益であると説得することが重要です。

期待を管理する


HRは、変革プロジェクトの期間中、社員とリーダーシップの期待を管理する役割を担います。これは、変革の規模や人々の欲求が異なるなどの理由から、容易ではありません。

チェンジマネジメントのプロセスでは、コミュニケーションが不可欠です。HRが状況を理解し、期待を適切に管理するためにも、チェンジマネジメントの初期段階からHRを関与させることが重要です。

Prosciでは、HRをはじめあらゆる組織部門を支援し、チェンジマネジメントのプロセス全般に役立つアプローチとツールを提供しています。我々は、関与すべき人々に正しいタイミングで正しい情報を提供し、チェンジマネジメントの人的側面の管理を成功させます。

HRが変革を主導する方法


HRが変革を効果的に主導するヒントを以下に紹介します。

初期段階での参加を呼び掛ける


初期段階でHRが参加することは、チェンジマネジメントを円滑に進めるために非常に重要です。初期から参加することで以下の情報にアクセスしやすくなります。

  • この変革とは何か?
  • なぜ変革が必要なのか?
  • 期待されるビジネスと組織の改善点は何か?
  • 部門ごとや社員への影響は何か?

これらの情報をプロセスの初期段階で得ることが出来れば、HRは変革の人的側面に対して十分な準備ができます。最初からHRをチェンジマネジメントの議論に参加させ、フィードバックを得ることで、スムーズな移行が可能になります。

チェンジマネジメントのネットワークを構築する


HR、各部署のチームリーダー、上層部のエグゼクティブからなるチェンジネットワークを構築することは、効果的な変革を計画し実行するために不可欠です。参加者全員が組織文化を理解し、良好な協働実績があることが重要です。このネットワークにより、様々な視点から専門的な助言が得られ、組織として臨機応変な対応が可能になります。

HRチェンジマネジメントプランを策定する


HRが変革プロジェクトに参加する場合、変革の人的側面を管理する方法を理解している必要があります。HRチェンジマネジメントプランには以下のステップを含め、それを実践して下さい:

  • 変革を評価する:変革の内容とその理由を理解する
  • 主要なステークホルダーを明確にする:変革に関わる人物とその役割を特定し、支援方法を明らかにする
  • 課題を予測する:予測される課題に備え、それを克服するための支援を行う
  • 望ましい成果を描く:明確なゴールを設定することで、達成時にわかるようにする
  • コミュニケーションプランを立てる:変革の内容、スケジュール、重要性をチームに伝える
  • トレーニングプランを立てる:全員が変革に対応できるよう準備を整える
  • スポンサープランを導入する:上層部のリーダーを巻き込み、変革を支援し説明する役割を担わせる
  • 管理職マネージャープランを確立する:マネージャーを関与させ、チームを導き、コミュニケーター(communicator)、連絡係(liaison)、コーチ(coache)として活躍させる

これにより、移行期にチームは迅速に適応し、ビジネスの進行がスムーズになります。

Prosciの方法論を活用する


Prosciの方法論は、変革を管理するためのフレームワークです。人を中心に変革を考える姿勢が組織に備わり、全員が変革を受け入れ、賛同できます。

方法論を構成する3つのフレームワークを利用します。

  • Prosci Change Triangle(PCT)モデル — 変革の成功に必要な要素を確立し連携させるモデル。成功、リーダーシップ/スポンサーシップ、プロジェクトマネジメント、チェンジマネジメントの4つの要素で構成。
  • Prosci ADKAR Model — Awareness(認識)、Desire(欲求)、Knowledge(知識)、Ability(能力)、Reinforcement(定着)の頭文字をとったモデルで、個人が変革を進める方法を示す。
  • Prosci 3フェーズプロセス — 組織レベルで変革を推進するための体系的でありながら、柔軟なフレームワーク。3つのフェーズを経て変革の成功を目指す。Phase1 – Prepare Approach(アプローチの準備)、Phase2 – Manage Change(変革のマネジメント)、Phase3 – Sustain Outcomes(成果の持続)。

HRは、Prosciの方法論を詳細なチェックリストとして活用し、個人が現在の状態から将来の状態へ移行するための最良の支援を提供します。

チェンジマネジメントへのコミットメントと支援を構築する


前述の通り、HRの役割は、チェンジマネジメントにおいて社員の賛同やコミットメントを促進することです。これにより、変革がより容易に、効率的に、そして長期的に効果的になります。

以下に、HRとしてチェンジマネジメントを支援する主な方法を2つ紹介します。

明確なベネフィットとWIIFMを示す

どのプロジェクトでも、HRが最初から関わるためには、人々に「WIIFM(私にとって何の利益があるのか?)」を示すことが重要です。つまり、変革が個々の社員にどのように有益であるかを具体的に伝え、抵抗を減らすためのサポートを行います。

例えば、いかに日々の業務が改善されるか、雇用の保障が高まるか、キャリアの選択肢が増えるか、社員満足度が向上するかを訴えることです。

コミュニケーションをカスタマイズする

異なるステークホルダーグループの懸念、ニーズ、関心に応じてコミュニケーションの内容をカスタマイズしましょう。個々の懸念に対応することで、変革の重要性と必要性について各ステークホルダーチームの理解を深め、全体的な支援体制を築きます。

例えば、プロジェクトマネージャーが変革による生産性への影響を懸念している場合は、直接対話を通じてその懸念に対処します。営業チームが消費者への影響を心配している場合も同様に、その懸念に具体的に対応します。

組織に学びと能力開発の機会を提供する


学びと能力開発の機会を提供することで、組織が変革に対してよりレジリエントで適応力のある状態になります。目標が変わったり、引き上げられたりすることがあっても、レジリエンスと適応力は成功の鍵となります。

以下の方法で学びと能力開発を導入します:

チェンジマネジメントトレーニングを受講する

関係者全員が変革を管理し成功させるためのスキルと知識を備えるようにします。例えば、Prosciの役割別トレーニングプログラムなどを利用して、管理職マネージャー、現場社員、スポンサーがそれぞれの役割を果たせるように備えます。

「我々のプラントは『文化の変革』に取り組んできました。何千時間も戦略をプランニングし開発しました。もし、このプロジェクトを始める前にProsciの『チェンジマネジメントトレーニング』を受講し、そのツールを活用していたなら、少なくとも50%は時間と費用を節約できたでしょう。」
— ホセ・ゴンザレス(LEAR社HR部長)

学びのニーズを明確にする

ニーズ分析を行い、職場でどのようなスキルギャップがあるのかを明確にし、そのギャップを埋めるためのトレーニングを計画します。オンラインアンケート、パフォーマンス評価、社員からのフィードバックなどを活用して不足しているスキルを特定します。

メンター活動、コーチング、社員同士の学びを提供する

社員同士の学びを促進し、知識共有の場を提供します。例えば、経験豊富な社員と学びたい社員をペアにして、互いに知識とスキルを共有する機会を作ります。これにより、社員間の関係が強化され、チェンジマネジメント期間中の協働が促進されます。

以下の具体的なステップを踏んで、チェンジマネジメントのヒントを実行に移しましょう:

  • 具体的なトレーニングを明らかにする:Prosciの役割別トレーニングプログラムやeラーニングコースを活用して、チームにチェンジマネジメントのツール、知識、スキルを提供します。
  • 必要なスキルを明確にする:チームが向上させるべきスキルを分析します。
  • 知識共有のためのシステムを構築する:定期的なミーティングを通じて、チームメンバーが経験を共有し、互いに学び合う機会を作ります。

Prosciと共に変革に備えよう


HRはチェンジマネジメントにおいて重要な役割を果たします。プロセスの期間中、人々を支え、懸念に対処し、情報の透明性を確保します。全員が変革の理由を理解し、成功させる方法を身につけられるようにしましょう。みんなが強いコミットメントを持ち、同じペースで進み、高い士気を保てば、組織は変革で大きな成功を収めることができるでしょう。

【無料】チェンジマネジメントにおけるベストプラクティス 第12版 エグゼクティブサマリー

調査研究25周年を記念して、Prosciはチェンジマネジメントにおけるベストプラクティス第12版を発表しました。1998年以来、Prosciはチェンジマネジメントのベンチマーク調査のリーダーとして、変革の成果を向上させるための貴重な教訓を提供してきましたが、今回の調査はカスタマイズ可能な洞察を提供し、あなたのチェンジマネジメント業務を飛躍的に進化させるものになりました。このエグゼクティブサマリーは、第12版の調査結果から重要なポイントを抽出しご紹介します。

無料ダウンロード

著者:トーリー・ティップトン (Tori Tipton)
トーリー・ティップトンは、フォーチュン500の企業を対象に25年以上にわたり変革を推進してきた経験があります。人柄は信頼に足り、コーチングやトレーニング、プログラム推進の専門家として様々なアプローチを駆使することに優れています。HR分野でのキャリアを積んだ後、企業の組織改革や能力開発など大規模かつ機能横断的な変革プログラムを手掛けてきました。管理職として、またチェンジマネジメントの分野で豊富な経験を持ち、SAPの導入、ハイリスクな変革プログラムのリーダーのコーチング、新たなチェンジマネジメントおよびプロジェクトマネジメントオフィスの設立など、多くの実績があります。