ERPシステム導入の抵抗をADKARで克服する方法Overcome Resistance to ERP Systems Changes With ADKAR

by Kelli Smith

組織がERP(統合基幹業務)システムに投資することは、情報資源の集約や生産性の向上、その他の長期的なベネフィットをもたらす可能性があります。しかし、導入時には様々な課題や抵抗が発生し、それがリスクを生み、ERPシステムの効果を損うことがあります。この記事では、Prosci® ADKAR® Modelを活用してこれらの問題を克服する方法をご紹介します。

ERPシステムと変革の必要性


企業は効率化や長期的なコスト削減を目的に、規模を問わずERPシステムへの移行を進めています。ERPシステムを活用することで、部材調達や製造から資金管理、人材リソース管理に至るまで、全社的にプロセスの改善が可能となります。その結果、無駄の削減、生産性の向上、社員満足度の向上が期待できます。

ERPシステムはデータを統一されたデータベースに統合するため、異なるオペレーション間でスムーズにデータを共有できます。これにより、データの重複を解消し、データ統合を促進して扱いやすくなります。また、チームが孤立して作業することを防ぎます。データとプロセスの統合により、マネージャーやチームメンバーがリアルタイムで情報を共有でき、迅速かつ効果的な意思決定が可能になります。

多大な時間とリソースを投入している以上、この変革プロジェクトから得られる利益を考えると、効果的なチェンジマネジメントが非常に重要です。新しいERPシステムの導入に対する抵抗を理解し、克服するためには、あなたの役割が大きな鍵を握っています。

ERPシステム導入に対する抵抗と課題


社員は長年使い慣れたシステムに愛着を持っています。ERPシステムから得られるベネフィットを考慮に入れても、慣れ親しんだシステムから新しいシステムに移行することは、多くの課題が出てきます。影響下にある社員が慣れ親しんだ現在の状態から、混乱を伴う移行期の状態へ、さらには将来の状態へと進むにつれ、技術的な課題は人的な課題へと発展し、抵抗につながります。

ERP導入計画を立てる際、リーダーやプロジェクトチームは、ビジネスの要件を慎重に整え、プロジェクトから得られるベネフィットを明確にすることが重要です。これらを明確にしないと、新システムのユーザーが過度な期待を抱く可能性があります。非現実的な期待はプロジェクト変更の要望に繋がり、結果的にプロジェクトの規模拡大やスケジュールの遅延を引き起こすリスクがあります。

導入期には、影響を受ける社員が日常業務をこなしながら、新しいシステムを学ぶ必要があります。プロジェクトチームは、新しいテクノロジーや機能、プロセスの導入を迅速に行い、稼働日に向けてすべてのマイルストーンを達成することに集中します。一方で、新たなスキルや用語、プロセスを学ぶプレッシャーを感じる社員にとっては、ストレスが増大することになります。

これらの課題はプロジェクトにとってリスクとなります。そのため、これらのリスクを理解し、低減することが不可欠です。また、組織に確かなチェンジマネジメント能力を構築することが重要となります。課題を適切に管理しないと、ERP導入における技術的課題や人的課題が、社員や他のステークホルダーの不満やストレスの増加、信頼の喪失を引き起こす可能性があります。

ERP導入における技術的課題と人的課題

これらの課題はプロジェクトにとってリスクとなります。そのため、これらのリスクを理解し、低減することが不可欠です。また、組織に確かなチェンジマネジメント能力を構築することが重要となります。課題を適切に管理しないと、ERP導入における技術的課題や人的課題が、社員や他のステークホルダーの不満やストレスの増加、信頼の喪失を引き起こす可能性があります。

ERP導入期の不安と抵抗


ERP導入による変革は、社員にとって個人的な課題と感じられ、脅威として捉えられることがあります。新しいプロセスの導入により、業務が他部署に移されたり、組織の再編成が行われることもあります。これにより、ある部署の業務が過重になったり、逆に他の部署の業務が削減されたり、部署の統廃合が起こることもあります。これまでの平穏な業務連携が乱され、すべてがプロジェクトのスケジュールに沿って進んでいるように感じられます。その結果、人々は不安を抱き、抵抗を示すようになります。

変革への不安


変革に対する不安は当然ながら抵抗につながります。新しいテクノロジーに移行する際、未知のものに対する不安が社員の態度に現れます。ERPシステムへの移行は、稼働日が近づくまで具体的なシステムの内容が分からないため、不安が増大します。システムベンダーやプロジェクトリーダーは、業務の効率化やコラボレーション環境の改善をアピールし、しばらくの我慢を求めますが、社員はそれを額面通りに受け取るとは限りません。

未知への不安


ERPシステムの導入は、新しいスキルを習得する必要があることを意味し、社員は限られた時間の中でスキルアップやリスキリングを求められます。これまでの業務をこなしつつ新しいスキルを学ぶことは、経験豊富な社員にとっても大きなストレスとなります。特に中堅社員にとって、新しいスキルを習得することはストレスフルであり、意思決定のミスや身体的な不調を引き起こすことがあります。

失敗への不安


失敗への不安から、新しいプロセスに挑戦することに消極的になることがあります。不安の根本原因を避けようとするため、態度が自然と後ろ向きになります。

ADKAR ModelでERPシステム導入の抵抗を解決する


ERPシステムの導入は、日常業務や社員の士気に大きな影響を与えるため、効果的なチェンジマネジメントが不可欠です。Prosci ADKAR Modelを活用すれば、ERPの導入をスムーズに進めることができ、影響下にある個人やグループが体系的に移行期を乗り越えられます。

ADKAR Modelは、変革の人的側面に注力しているため、管理職マネージャーは社員が直面する課題の複雑さを理解し、システムの導入が人々に及ぼす影響に配慮することができます。また、変革プロジェクトの成功にも重点を置いているため、ビジネスリーダーは抵抗を軽減し、変革を受け入れる社員の能力を高めることができます。

ADKAR Modelの各要素が、どのようにERPシステムに対する抵抗を軽減し克服するのかを以下に示します。

Awareness(認知)


変革に対する疑問やその影響について答えることで、社員の抵抗を軽減し、変革に対するAwareness(認知)を高めることができます。

組織に大きな影響をもたらす変革を実施する場合、リーダー、管理職マネージャー、プロジェクトリーダーたちは優れたコミュニケーション能力を必要とします。ADKAR Modelを使い、ERPシステム導入の必要性に対する人々のAwareness(認知)を構築し、プロジェクトについての説明をする必要があります。コミュニケーションは縦方向にも横方向にも十分伝わるよう配慮し、情報の共有や受取りの妨げとなるものを排除しなければなりません。

Desire(欲求)


変革に対するDesire(欲求)を高めることで、抵抗を減らすことができます。社員が変革のビジネス上の理由に納得し、「自分にとって何の利益があるのか(WIIFM)?」という疑問に答えを見出せるようにします。

ビジネスリーダーは透明性を持って変革の理由を示し、社員が変革を支援したいというDesire(欲求)を持てるようにする必要があります。ERP導入の成功には、チェンジプラクティショナーが影響下にあるグループからフィードバックを収集し、障害となっている問題に管理職が敏速に対応し、スポンサーが人々の参加を促しつつ自らもロールモデルとして正しい態度を示すことです。生産性のあるコミュニケーションと積極的な参加は、ERP戦略の方向性をより確かなものにします。

Knowledge(知識)


ERPシステムを導入する方法についてのKnowledge(知識)を提供することで、不安や疑念を取り除き、社員が自分の役割を果たせるように準備します。

Knowledge(知識)とは技術面だけではありません。チェンジプラクティショナーたちはERPのトレーニングプログラムを計画する際、新システムの技術面以外にも、新たなプロセスや業務の流れについても人々が受け入れ活用できるよう配慮するべきです。人事部では、新しい求人方法や新人研修に関するトレーニングが必要かも知れませんし、財務部では、売掛金や支払プロセス、送り状、請求書、会計年度末業務に関するトレーニングが必要になるかも知れません。影響下にある部署ごとにトレーニングを施すだけでなく、プロジェクトリーダーは、それらの業務手順が人々やステークホルダーにどう影響するか、それぞれのニーズに最も必要なトレーニングが何かを考えなければなりません。

Ability(能力)


トレーニングを通して身につけたスキルを活用する機会を提供することで、ERPシステムの稼働日までに、社員が必要なスキルと行動様式を実践するAbility(能力)に自信を持てるようになります。

チェンジプラクティショナーは、社員たちがERPという変革を受け入れ活用できるようにすることで、結果的に組織の目標達成に貢献します。社員のAbility(能力)を構築するには、チェンジプラクティショナーは、管理職マネージャーと共に実務に携わり、コーチングしていく必要があります。社員たちは、新しいERPシステムを使いこなすにつれて、次は周りの人たちに新しいスキルを教えることができるようになります。

Reinforcement(定着)


抵抗は変革のどのステージでも起こり得ます。人々にとって、物事を回避したり、昔の仕事のやり方に逆戻りしたりすることは珍しいことではありません。彼らを引き続きサポートし、抵抗の管理をすることで、Reinforcement(定着)を促し、変革が軌道に乗ることを支援できます。

ADKAR Modelを使って定着を図る場合、チェンジプラクティショナーは、プロジェクトチームと共に影響下にあるグループがERPシステムを使えているか、本人たちからフィードバックを収集しなければなりません。アンケートから得られる識見や、対面ミーティングを通して、プロジェクトチームは人々が最も効率よく仕事ができるよう調整することができます。パフォーマンス評価をする際には、変革の導入やベネフィットの実感といった項目の進捗状況を示すため、チェンジプラクティショナーはスコアカードを活用します。

ERP変革に対する抵抗を克服するための準備


ERPシステムの導入を成功させるために、チェンジプラクティショナーはプロジェクトの初期段階から一貫して抵抗の管理を行う必要があります。まず、組織の変革に対する準備状況を評価し、ステークホルダーを特定して変革の影響とリスクを評価します。ERP導入前にステークホルダーを巻込むことです。また、影響を受ける社員のADKARバリアポイントに対処し、チェンジインパクトの10の側面モデルを活用して社員のニーズを理解し、関与を向上させます。

ERP変革に対する抵抗を再認識し克服するために


抵抗を効果的に理解し管理するには、異なる視点から問題を捉え、否定的な感情や批判を回避することが重要です。抵抗のタイプを判別し、その根本原因を理解することで、人々のバリアを取り除き、前進できるよう適切な対応策を講じることができます。

ERP導入のベネフィットを最大限に享受するためには、ADKAR Modelを含む確かなチェンジマネジメントの方法論を適用することが重要です。これにより、組織がERPシステム導入に必要な要件を明確にし、影響を受ける人々のニーズに対応することができ、ERP変革プロジェクトから確実にリターンを得ることができます。

【無料】変革の影響を定義する

チェンジプラクティショナーが直面する最大の課題は、組織レベルの変革を、個人レベルの変革に落し込むことです。その際、個人レベルの変革プロセスを意識して、目を向け、注意深く観察し、記録するためのフレームワークを持つことが重要です。「チェンジインパクトの10の側面」のフレームワークを活用すると、組織レベルの変革が個人の仕事にどのような影響を与えるかを分析することができます。また、これらの側面を考慮することで、変革がグループによって異なる影響を及ぼすことを早い段階で確認することができます。

無料ダウンロード

著者:ケリー・スミス (Kelli Smith)
ケリー・スミスは、チェンジマネジメントと組織開発のシニアリーダーであり、リーダーシップ開発とコーチングに豊富な経験を持っています。Prosciに入社する前は、Aflac社の組織チェンジマネジメントのシニアマネージャーとして、組織全体にチェンジマネジメントの方法論を確立し、実践部隊を構築しました。また、プラクティショナーの能力モデルを導入し、組織の変革成熟度を向上させました。その前には、Anthem社で戦略的な変革を推進し、2,700万ドル規模のメディケアプロジェクトポートフォリオを担当していました。ケリーは、認定チェンジマネジメントプロフェッショナル(CCMP™)であり、DiSC®とDDI®インタラクション・マネジメント・リーダーシップ開発の資格も保有しています。