IT分野におけるチェンジマネジメントの価値Unlock Value With This IT Change Management Process Guide

by Deborah Firth

今後数年で、AI市場は450億ドルから2070億ドルに成長すると予測されています。AIやその他の最先端ITシステムを効果的に導入した企業は、その投資から大きな利益を得ています。そして、効果的なチェンジマネジメントによって、その投資はさらに大きな効果を発揮しています。

企業にとってITへの投資は、新たなビジネスレベルに到達するための戦略的手段であり、その成果は顧客満足度の向上、業務の効率化、革新的な製品やサービスの創出などに表れています。

しかし、大規模なITシステムの導入や全面的なデジタルトランスフォーメーションだけでは十分ではありません。

企業がデジタルトランスフォーメーションのような大規模な変革で苦戦することがあるのは、その変革において人的側面が十分に考慮されていないからです。我々のチェンジマネジメントにおけるベストプラクティスの調査によると、ITチェンジマネジメントのプロセスで最大の障壁となるのは次の3つです:

  • 変革への抵抗
  • リーダーシップの賛同やコミットメントの欠如
  • 組織文化との衝突

では、大規模なIT投資によって生じるビジネス上の人的側面の課題をリーダーはどのように克服できるのか、そして、組織におけるチェンジマネジメントの戦略的かつ財務的なベネフィットをどのように引き出すことができるのか、見ていきましょう。

まず、IT分野におけるチェンジマネジメントについておさらいをしましょう。

ITチェンジマネジメント vs. 組織チェンジマネジメント


ITの世界では、他の業界と比較して「チェンジマネジメント」の意味合いがやや異なります。過去数十年にわたり、ITサービスマネジメント(ITSM)やITインフラストラクチャライブラリ(ITIL)によって、ITチェンジマネジメントは何度も再定義されてきました。

  • ITSM — 組織全体がITサービスを管理し、顧客に提供するために用いる一連のアクティビティ、考え方、導入プロセス
  • ITIL — 組織がITサービスを管理し、最適化するために用いる包括的なベストプラクティス集

ITSMとITILはもともと、ITサービスをサポートするために、プロセスを重視したアプローチとして設計、提供されました。チェンジイネーブルメントやチェンジマネジメントなどの人的側面を含む手順もありましたが、統一された概念がないまま広まってしまいました。

その結果、ITILやITSMを活用しても、組織のIT変革の成功率は低いままでした。2017年、サービスデスクインスティチュートによれば、このようにして実施されたIT変革プロジェクトのうち、ROIや期待通りのベネフィットを得られたのはわずか12%に過ぎませんでした。ROIが著しく低かった企業では、組織のチェンジマネジメントが欠如していました。

現在、第4世代に進化したITILが推奨するのは、組織全体における戦略的なチェンジマネジメントの活用です。

ステークホルダーや意思決定者にとって、ITチェンジマネジメントと組織チェンジマネジメントを区別することが重要です。両者を明確に区別することで、組織はテクノロジーの変革を効果的に導入し、管理することができるのです。

ITチェンジマネジメントと組織チェンジマネジメントの違い

ITチェンジマネジメントは、ITSMやITILから得たベストプラクティスを活用した体系的なフレームワークが特徴です。このプロセスは、ソフトウェアの更新、ネットワークの変更、ハードウエアの刷新など、技術的な変革に重点を置き、ITインフラの管理において非常に重要な役割を果たします。

一方の組織チェンジマネジメント(OCM)は、変革の人的側面に焦点を当て、以下のような課題に取り組みます:

  • 変革を円滑に推進する
  • 変革に伴うリスクと抵抗を軽減する
  • 人々が業務において変革を受け入れ、効果的に活用できるよう支援する

ITILは、組織チェンジマネジメントを次のように定義しています

変革の人的側面を管理することで、変革が組織内でスムーズに実施され、長期的な成果を得るための取り組み

OCMのアプローチでは、テクノロジーの進化に対応して人々のスキルも向上させることが重要であると強調しています。これは、テクノロジーが効果を発揮するのは人々がそれを活用する時だという認識に基づいています。

つまり、ITチェンジマネジメントは体系的でテクノロジー重視であるのに対し、組織チェンジマネジメントは柔軟で人を重視します。現代のビジネスにおいて、効果的に変革を導入するためには、両者を包括的な戦略に組み込むことが不可欠です。

それを踏まえ、IT分野への投資がなぜ重要かを見ていきましょう。

IT分野への投資の最大の理由 — 戦略的優位性を確保するために


スタティスティアによれば、世界のIT支出は2021年の4.3兆ドルから2024年には5兆ドル弱に急拡大しました。

あらゆる業種の企業がデジタルトランスフォーメーションに投資し、自社の製品やサービスの競争力を高めています。これはIT分野でも同様です。

生産ラインやサービス提供に混乱を生じさせないことは重要ですが、技術的なチェンジマネジメントの最大の目的は、新しいオポチュニティを開拓し、競争で優位に立つことです。マイクロソフトやアマゾンなどのIT企業は、最新のテクノロジーを活用した製品やサービスを提供する戦略で、激しい市場競争を勝ち抜いてきました。

特に、以下のようなテクノロジーは、ここ数十年で大規模な投資を呼び込んでいます:

  • AI — 人とコンピュータの相互作用を加速
  • ブロックチェーン — 安全で改ざん不能な分散型台帳として情報を保存
  • クラウドシステム — 企業の生産環境の柔軟性を高め、サービス提供のコスト削減
  • モバイルアプリ — 消費者がIT製品やサービスに容易にアクセス可能

しかし、これらの技術にはもう一つの共通点があります。それは、人々がどれだけ効果的に活用するかで投資利益率(ROI)が決まるということです。つまり、ITへの投資は、新しいシステムを導入するだけではなく、新しいスキルやプロトコルを構築することが重要です。

投資利益率(ROI)を最大化するためには、ITILの「ハード面」のアプローチと、OCMの「ソフト面」のアプローチを組み合わせることが鍵です。

テクノロジーにおけるパラダイムシフト — 包括的なITチェンジマネジメントの重要性


大規模なテクノロジーの変革期において、組織チェンジマネジメントを適用することの重要性は計り知れません。

確かに、ソフトウェアやテクノロジーは、今や全ての組織運営、特にIT分野において中心的な役割を果たしています。しかし、それは全体の一部分に過ぎません。テクノロジーを活用する人々とそれを支えるプロセスこそが、IT企業がアジャイルで成功するかどうかを決定する要素です。

テクノロジーのチェンジマネジメントに豊富な経験を持つProsciのインストラクターは、包括的なアプローチの重要性を次のように述べています:

チェンジマネジメントは単なるプロセスではなく、サービスの品質や顧客満足度を左右する基盤です。組織がデジタル社会で自信を持って進むため、またアジャイルでレジリエントな企業であるために、そして新しい時代に備えるためにも、不可欠な力となります。
―― マヴォーニーン・マイネリ(Prosci エグゼクティブインストラクター)

ITILのベストプラクティスと併せて、人的側面のチェンジマネジメントの方法論を取り入れることで企業はIT分野で以下のような大きなメリットを得ることができます:

  • サービスの品質向上 — OCMは変革に対する抵抗を減らし、高品質なサービスの提供を可能にすることで、ビジネスにとって致命的なサービス中断のリスクを大幅に減らします。
  • 顧客満足度の向上 — 変革を迅速に受け入れる組織は、信頼性の高いサービスを維持し、結果として顧客満足度を向上させることができます。
  • アジリティの向上 — 技術部門を含む全社的な変革力を構築することで、企業は新しいテクノロジーを迅速に取り入れ、活用し、市場の変化に柔軟に対応できるようになります。
  • コストとリスク削減 — デジタルトランスフォーメーションが長引いたり失敗したりすると、コストや機会損失が大きくなります。しかし、チェンジマネジメントが成功すれば、顕著なコスト削減が可能です。

ITの専門家たちも、ITILの目標を達成するためには組織チェンジマネジメント(OCM)が重要であると認識しています。ITILのベストプラクティスのフレームワークは、OCMが技術の変革に寄与する4つの重要な点を強調しています:

  • 明確で納得できる目的 — IT投資の重要性をステークホルダーに明確に伝えることで、彼らの賛同と長期的な受け入れを促進します。
  • 強力なリーダーシップと関与 — マネージャーや業務リーダー、その他の組織のスポンサーが積極的に新しいテクノロジーを支援することで、全社的にその技術の導入が進みます。
  • 参加者の積極性と準備 — トレーニングや定期的なコミュニケーション、懸念を表明する場を提供することで、テクノロジーを使用するメンバーが十分に準備を整えることができます。
  • 改善を定着 — データに基づいた定期的なコミュニケーションを維持することで、新しいテクノロジーが組織にしっかりと定着し、旧来の方法や慣習に戻らないようにします。

Prosci認定チェンジマネジメントプラクティショナーは、ITILが示すこれらのベネフィットから連想することがあるでしょう。ProsciのADKAR® Modelとほぼ同じだからです。この個人の変革のモデルが如何に段階的、反復的、ハイブリッドなソリューション開発のアプローチに沿っているかを考えると当然であると言えます。

反復的ITチェンジマネジメントプロセス

Prosciのエグゼクティブインストラクターやチェンジアドバイザーの多くはIT分野出身です。そのため、彼らはProsciのADKAR Modelや方法論を活用することで、デジタルトランスフォーメーションを効果的に進められることを熟知しています。また、それが将来の変革を成功させるための強固な基盤となることも理解しています。

ITILチェンジマネジメントを最大限活用し、Prosciの方法論を統合する


Prosciは30年以上にわたり、変革の人的側面に焦点を当て、IT分野をはじめ多くの企業や組織を支援してきました。その結果、社員はただ指示を受けるだけでなく、自ら積極的に関与し、力をつけ、変革に向けた準備を整えることができ、ITILチェンジマネジメントのベストプラクティスに従って前進することが可能になります。

IT企業にとって、組織チェンジマネジメントの戦略的重要性は、サービスの中断を最小限に抑えた成功裏の導入を促進できる能力にあります。変革の成功は、新しいテクノロジーがユーザーに受け入れられているか、そしてビジネスにおいて望ましい成果を上げているかどうかで測られます。

この10年間、Prosciはマイクロソフトと協力して社内のチェンジマネジメント部門の設立を支援してきました。巨大IT企業であるマイクロソフトは、単にアジャイル手法を実践するだけでなく、アジャイルな文化を持つ企業です。彼らが変革の人的側面に重点を置くことで、以下のような多くの成果を上げています。

デジタルトランスフォーメーションによりマイクロソフトのIRが期待以上の成果を実現


マイクロソフトのインベスターリレーション(IR)は、エグゼクティブ、投資家、金融業界との間で絶え間ないコミュニケーションを維持する必要があります。最も重要な業務は、財務データの機密性を保ちながら、四半期ごとの業績報告書を数百万人に配布することです。

IRの技術チームは、従来の広報プラットフォームをよりセキュリティの高い新しいAzureベースのものに更新するという、複雑なIT変革プロジェクトに取り組みました。このプロジェクトは、技術的な変更だけでなく、IRチーム内の個人やプロセスにも大きな変革を求めるものでした。

この変革プロジェクトにおいて、OCMの重要性を認識したマイクロソフトは、Prosciの方法論を以下のように最大限活用しました:

  • シニアリーダーシップチームからの必要なスポンサーシップを確保
  • IRチームやマネージャーへのコーチングを通じて、役割と責任を明確化
  • 役割に応じたトレーニングを実施し、スキルギャップを埋め、想定されるシナリオに基づいたリハーサルを実施
  • シニアリーダーシップグループ内の抵抗を管理し、懸念に対処
  • テクニカルネットワークを駆使して、継続的なコミュニケーションを確保し、全ての活動を完了

これらの取り組みにより、マイクロソフトのIRチームは新しいAzureベースのプラットフォームを通じて、数百万の消費者に対し重要な業績報告書を無事に配布することができました。

マイクロソフトのエンタープライズサービスチームにおける顧客受入率の向上


Prosciは近年、マイクロソフトエンタープライズサービス(MES)チームと緊密に連携し、プロジェクトベースでのコンサルティングを通じて、マイクロソフトの顧客がより迅速に新しいプラットフォームを受け入れ、効果的に活用できるよう支援してきました。

しかし、クラウドの急速な普及や市場の変動により、顧客の期待は高まり、MESチームはさらに対応を迫られました。こうした状況で、チェンジマネジメントは収益拡大の鍵を握る重要な要素となりました。

MESチームは、チェンジマネジメントの価値を顧客に信頼してもらうため、実績ある方法論を示す必要がありました。そこで、Prosciは以下のようなソリューションを提供しました:

  • MESチームにライセンスを付与し、Prosciの方法論をカスタマイズして活用できるようにした。
  • 2,250人の社員にチェンジプラクティショナーの資格を取得させ、チェンジマネジメント能力の基盤を構築した。
  • 世界中のマイクロソフト社員250,000人が利用可能な、重要なチェンジマネジメントのリソースを確保した。
  • マイクロソフト内外でのコンサルティングを支援するために、カスタマイズされたトレーニングを提供し、マイクロソフトの顧客や関連企業でも活用できるようにした。

Prosciとの協力の結果、MESチームはわずか4年で投資利益率の向上を確認しました。MESが主導するチェンジマネジメントワークショップでは、参加者の変革受入率が450%に達しました

マイクロソフトサービスの元チーフナレッジオフィサー、ジャン=クロード・モニーは、IT分野において従来ハードウエアの変革が重視されていた中で、OCMがいかに重要であるかを実感してきました。彼は、企業規模でのITチェンジマネジメントのプロセスを早い段階で体験してきました。

  • 2000年にSTマイクロエレクトロニクス社のe-ビジネストランスフォーメーションを主導
  • 数千人を巻き込んでインテルとSTとのジョイントベンチャーを設立
  • マイクロソフトサービスオフィスのためにクラウドベースのナレッジプラットフォームを構築

彼にとって、ProsciのADKAR Modelを学んだことが、テクノロジー分野におけるOCMの重要性を確信する契機となりました。この確信をCTOやテクノロジーリーダーと共有できた瞬間、チェンジマネジメントが単なる業務項目ではなく、独立したプログラムとして重要であることが証明されたのです。

組織チェンジマネジメントで戦略的優位に立つ


オペレーショナルエクセレンスは、もはやIT企業にとって唯一のベンチマークではありません。先進企業は、効果的なチェンジマネジメントプロセスによって戦略的優位性を確立しています。

AIのようなテクノロジーを次々と統合している企業において、リーダーたちは単に技術的な視点からチェンジマネジメントを見ることをやめる必要があります。変革に対する抵抗やリーダーのスポンサーシップ欠如は、効果的なチェンジマネジメントによるプラスの効果以上に、大きな打撃となります。

組織チェンジマネジメントの考え方を大規模なITプロジェクトに組み込むことの重要性は、ITILでも認識されています。マイクロソフトのような巨大IT企業でも、組織チェンジマネジメントがコスト削減や効率化など、オペレーション面でのベネフィットをもたらすことを理解しています。ビジネスにおいてチェンジマネジメントは常に考慮に入れる価値があることを忘れないでください。

【無料】チェンジマネジメントにおけるベストプラクティス 第12版 エグゼクティブサマリー

調査研究25周年を記念して、Prosciはチェンジマネジメントにおけるベストプラクティス第12版を発表しました。1998年以来、Prosciはチェンジマネジメントのベンチマーク調査のリーダーとして、変革の成果を向上させるための貴重な教訓を提供してきましたが、今回の調査はカスタマイズ可能な洞察を提供し、あなたのチェンジマネジメント業務を飛躍的に進化させるものになりました。このエグゼクティブサマリーは、第12版の調査結果から重要なポイントを抽出しご紹介します。

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著者:デボラ・ファース (Deborah Firth)
デボラ・ファースは、クラウド導入、組織文化の変革、新しいテクノロジーの受け入れなど、複雑で大規模な変革プロジェクトを主導してきた経験豊富なチェンジマネジメントリーダーです。彼女は、変革のための部署を立ち上げたり、リスクを低減し、チームの効率を向上させたり、コスト削減に取り組んできました。組織能力開発の分野で修士号を取得しており、その専門性を活かして、ビジネスプロセスの改善、リソースの最適化、アジャイル手法の導入を推進しています。