変革を推進するうえで効果的な3つの施策 (プロジェクト立ち上げ編)

前回(リンク)に引き続き、2022年8月に実施した弊社の無料セミナーの内容をもとに、変革を推進するうえで効果的な施策をフェーズ毎にご紹介したいと思います。今回は第2回「プロジェクト立ち上げ」編です。

まず、この記事における「プロジェクト立ち上げ」とはどのような段階を指すかご説明します。「プロジェクト立ち上げ」とは、ビジネス上の目的・目標の達成を目指した取組みやプロジェクト(例えば、企業文化を変える、ITツールやシステムを変える、制度やルールを変える、組織体制を変える、など)を開始した序盤の段階を指します。具体的には、予算獲得が完了し、以降の活動を本格的に開始するための計画立案や構想策定を開始する段階を想像頂ければと思います。

このフェーズにおける「人」の側面の課題としては、以下のようなことが挙げられます。

  • 変革の承認者であり最高責任者であるプライマリースポンサーが明確ではない。それにより、責任の所在が曖昧で意思決定に遅延が生じる。経営陣やマネジメントメンバー等のコミットが得られない。また、社員に対して重要なメッセージの発信主体となるべき人物が居ない、あるいは決まっていない。
  • プロジェクトの目的が明文化されていない、もしくは明文化されているものの定義が曖昧で、関係者に広く浸透していない。一部のマネジメントメンバー等のみに共有されている。それにより、プロジェクト関係者の行動や判断基準にバラつきが生じている。
  • プロジェクトの体制や役割にチェンジマネジメントの要素が含まれておらず、「人」に対する支援や管理を行う担当者やチームが存在しない。

上記のようなプロジェクトの立ち上げフェーズにおける課題は、以降のプロジェクト進行において大きな影響を与えます。そこで、今回はこのフェーズにおいて効果的な施策をチェンジマネジメントの観点から3つご紹介します。他にも効果的な施策やアクションはありますが、今回はより重要なポイントにフォーカスしてご説明します。

1.プライマリースポンサーとプライマリースポンサーを支えるスポンサー陣を明確にする。また、プライマリースポンサーに必要な役割を理解してもらい、変革にコミットしてもらう。


ご自身が参画されているプロジェクトの最高責任者が誰であるかをすぐに答えることはできますか。また、その方は、プロジェクトメンバーだけではなく、変革の影響を受け得る方々に対して広く積極的にメッセージを発信してプレゼンスを発揮しているでしょうか。

まず、チェンジマネジメントの観点では、最高責任者であるプライマリースポンサーの役割は、予算の承認や重要な意思決定を行うことだけではありません。それらの役割に加え、社員や関係者から目に見える存在となり直接メッセージを発信し、周囲のマネージャー等と連携し協力関係を築くことも役割に含まれます。プライマリースポンサーが明確に決定していなかったり、プライマリースポンサー自身が役割に対する認識や理解が足りていなかったりすると、以降のプロジェクトフェーズにおける「人」の側面の支援やケアが立ち行かなくなります。

そのため、このフェーズにおいては、まず、プライマリースポンサーを特定することが重要です。続いて、プライマリースポンサーに協力して推進するスポンサー陣を把握することも必要です。この時に「スポンサー連携図(スポンサー陣の連携を図示したもの)」を作成し、コミュニケーションアプローチを定めます。そして、プライマリースポンサーやスポンサー陣に対してそれぞれの役割や今後のスケジュールなどを丁寧に伝え、滞りなく対応してもらえるように支援します。特に、プライマリースポンサーが期待通りの役割を果たせるかどうかはプロジェクトの成否に大きく関わるため、チェンジマネジメントの観点で必要とされるスポンサーとしての役割を理解しコミットしてもらえるように、丁寧にサポートします。

なお、すでにプライマリースポンサーが明確になっている場合には、特定し直したり、改めて任命しなおしたりする必要はありませんが、役割の理解を促し、行動を起こしてもらえるように支援することをおすすめします。

2.変革の目的、成功の姿を明文化し、関係者間の共通認識にする。


「プロジェクト立ち上げ」フェーズにおいては、変革の目的・背景、重要性などを明確にし、関係者間の共通のものにすることが重要です。目的や成功の姿が明確ではない、あるいは、その内容に一貫性が無いと、プロジェクト運営に支障をきたす可能性が高まるだけではなく、変革の影響を受ける社員の納得感の低下にもつながります。

多くのプロジェクトにおいて、目的やゴールは、プロジェクト化された時点で凡そ定義されているものですが、個人毎にその認識が異なっていたり、関係者の中にはあまり目的についてあまり深く考えたことが無いという方がいることもあります。そこで、プライマリースポンサーやスポンサー陣を含む関係者間でディスカッションを重ね、変革の目的や成功の姿に関する理解を共通のものにしていきます。ワークショップのような形式で集中的に討議を行うことも効果的です。誰が、いつ、どのような状態になることを目指した変革なのか?何をもって成功と呼べる状態になるのか?といった内容をディスカッションを通じて整理し、関係者全員が同じ方向を向いている状態を作り出します。

加えて、社員に対する広いコミュニケーションを想定し、ディスカッションの結果をもとに変革の目的や目指す姿を端的かつ伝わりやすいメッセージを作成することもお勧めします。社員に対して一貫したメッセージを繰り返し発信することは、変革の認知を高めることに繋がります。

3.プロジェクトの体制にチェンジマネジメントの機能を設ける。あるいは、PMやPMOがチェンジマネジメントを理解し実行できるようにする。


プロジェクトや変革を成功に導くためには「技術的側面」(例:システム、制度・ルール、ツール)と「人的側面」の両方からの管理や支援が不可欠です。ご自身のプロジェクトにおいて、変革によって影響を受ける社員に対して適切なコミュニケーション、トレーニング、コーチングなど展開する担当者や役割がプロジェクト体制上や役割分担表上に存在しているかどうかを確認してみてください。もし、そういった担当者や役割が存在しない場合には、チェンジマネジメント担当者やチェンジマネジメントチームを新たに組み込むように提案するか、既存の担当者やチームにチェンジマネジメントの役割を担ってもらうように提案することをおすすめします。また、チェンジマネジメント専任のチームや担当者をアサインすることが難しい場合には、PMがチェンジマネージャーの役割も担う形とすることも可能です。但し、PMとチェンジマネージャーを兼務することによって、PMとしての役割に追われてしまい、チェンジマネジメントにまで手が回らなくなることがありますので、両方の役割を兼務することによるデメリットもご留意ください。

ちなみに、多くの方にとって聞き慣れない「チェンジマネジメント」という言葉を用いたチーム名や機能名を突然、体制に組み込むと、予期せぬネガティブな反応が生じることもありますので、プロジェクト全体にチェンジマネジメントの教育を行うか、チームや役割の名称を工夫することでチェンジマネジメント機能を持たせることも良い方法の1つです。

なお、PMやPMOなどを担当されている方で、チェンジマネジメントを学びたい方向けに「プロジェクトマネージャー向けチェンジマネジメントワークショップ」(リンク)という1日プログラムのご用意もありますので、ぜひ受講をご検討下さい。

日本アタウェイ株式会社では、チェンジマネジメントのトレーニングや、チェンジマネジメント立ち上げ支援サービスを含むチェンジマネジメントコンサルティングサービスをご提供しています。ぜひお気軽にお問合せください。


著者:根本 佳代子 (ねもと・かよこ)日本アタウェイ グローバルコンサルティング事業部 マネージャーERP導入コンサルタントとして国内外の大規模プロジェクトに従事し、システム導入やIT部門支援などの複数のプロジェクトのPMやPMOを担当。プロジェクトマネジメントの経験からチェンジマネジメントや「人」の支援の重要性を強く感じ、2018年に日本アタウェイで米プロサイとのパートナーシップ構築に関わる。現在、国内外のクライアントの変革施策においてチェンジマネージャーとして多くの変革施策を成功に導いている。