チェンジマネジメントのROI(投資利益率)の算出方法Change Management ROI Calculation
by Tim Creasey
チェンジマネジメントによって、プロジェクトが目指す成果のうち、どの程度が社員の「受け入れと活用」に依存するのかを把握することが可能になります。人的側面のROI(投資利益率)を定量化することで、チェンジマネジメントのROIを算出し、プロジェクトリーダーや経営幹部と有意義で建設的な対話を行うためのコンテンツを提供し、チェンジマネジメントへの賛同とコミットメントを得ることができます。
プロジェクトの成果に直結させる形でチェンジマネジメントの ROI を考えるにあたり、以下の点に気を付けることが重要です:
「チェンジマネジメントのROIは?」という問いではなく、「プロジェクトの利益のどの程度が社員の『受け入れと活用』に依存するか?」という問いをすること
チェンジマネジメントの ROI とは、社員の「受け入れと活用」によってプロジェクトが生み出す付加価値のことです。以下のプロセスを実施することで、チェンジマネジメントの貢献に対する定量化された価値を把握し表現できるようになります。
チェンジマネジメントを視野に入れたROIの分析
まず始めに、ROI(投資利益率)を定義しましょう。
正味利益(プロジェクトの期待収益-プロジェクトの費用)をプロジェクトの費用で割ると、その施策を行うことで得られる価値が算出されます。プロジェクトリーダーや経営幹部は、このような分析に慣れ親しんでいます。
それでは、チェンジマネジメントのROI(CMROI)の議論をするために、プロジェクトの期待収益を分解してみましょう。プロジェクトの期待収益の一部は、社員の「受け入れや活用」とは無関係です。例えば、保守料やライセンス料が安いソフトウェアに刷新するケースを考えてみましょう。このような期待収益は、社員の受け入れ率や活用率に関係なく達成されます。それらは、一つ目のカテゴリーである「受け入れや活用に依存しない」に該当します。
プロジェクトの期待収益のもう一つのカテゴリーは、「受け入れや活用に依存する」です。新しいソフトウェアは、保守料やライセンス料が安くなる(社員の「受け入れや活用」とは無関係な収益)だけでなく、社員に上手く利用されれば、より正確でタイムリーなデータが作成され、パフォーマンスが向上し、エラーが減少します。これらの収益は、変革の影響を受ける社員が新システムを活用し、効果的に使用することによってもたらされます。
社員の受け入れ率や活用率に左右されるプロジェクトの収益こそ、チェンジマネジメントによって把握・保証・推進・実現できるものになります。
チェンジマネジメントのROIの計算方法
これまでの基礎となる考え方を踏まえて、人的側面の収益貢献、つまり、社員の「受け入れと活用」に依存するプロジェクトの収益と呼ぶべきものを説明する2つの例を挙げます。
プロジェクトA: ハードウェアのアップグレード |
プロジェクトB: 業務プロセスの最適化 |
|
---|---|---|
プロジェクトの期待収益 | $1,300,000 | $1,300,000 |
プロジェクトAもプロジェクトBも、期待されるプロジェクトの収益は同じ(130万ドル)です。しかし、ハードウェアのアップグレードと業務プロセスの最適化では、収益のタイプが異なることが直感的にわかります。そこで、各プロジェクトが社員に与える影響を表に追加します。
プロジェクトA: ハードウェアのアップグレード |
プロジェクトB: 業務プロセスの最適化 |
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---|---|---|
プロジェクトの期待収益 | $1,300,000 | $1,300,000 |
社員への影響 | 非常に小さい。ほんの一握りの社員の日常業務に影響がある。 | 非常に大きい。多くの社員が新しい方法で仕事をこなさなければならなくなり、新しいプロセスを遵守することが、最終的に最適化から期待される価値の多くを生み出す。 |
人的側面の収益貢献度を算出するための、単純な(しかし示唆に富む)質問は下記です:
社員の受け入れ率や活用率が0の場合、期待される収益はいくらになるだろうか?
言い換えれば、このプロジェクトが稼動したときに、社員が誰も仕事のやり方を変えなかったとしたら、どれだけの価値が実現するのだろうか?ということです。このデータがあれば、チェンジマネジメントがもたらす価値を検証することができます。先ほどの例において、社員の受け入れ率と活用率が 0 のときに、次のような値が得られると仮定します。
プロジェクトA: ハードウェアのアップグレード |
プロジェクトB: 業務プロセスの最適化 |
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---|---|---|
プロジェクトの期待収益 | $1,300,000 | $1,300,000 |
社員の受け入れ率と活用率が0の場合、期待される収益はどのくらいか? | $1,150,000 | $350,000 |
プロジェクトの期待収益から、社員の受け入れ率や活用率が0の場合に期待される収益を差し引くことで、社員の受け入れ率や活用率に関連するプロジェクトの収益の額、つまり私たちが「人的側面の収益貢献」と呼んでいる額が算出されます。
プロジェクトA: ハードウェアのアップグレード |
プロジェクトB: 業務プロセスの最適化 |
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---|---|---|
プロジェクトの期待収益 | $1,300,000 | $1,300,000 |
社員の受け入れ率と活用率が0の場合、期待される収益はどのくらいか? | $1,150,000 | $350,000 |
人的側面の収益貢献 | $150,000 | $950,000 |
下のグラフは、期待収益を、社員の「受け入れや活用」に依存するものと、「受け入れや活用」に依存しないものに分けて示しています。
最後に、人的側面の収益貢献を、プロジェクトの期待収益で割ります。
プロジェクトA: ハードウェアのアップグレード |
プロジェクトB: 業務プロセスの最適化 |
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---|---|---|
プロジェクトの期待収益 | $1,300,000 | $1,300,000 |
社員の受け入れ率と活用率が0の場合、期待される収益はどのくらいか? | $1,150,000 | $350,000 |
人的側面の収益貢献 | $150,000 | $950,000 |
人的側面の収益貢献度 | 12% | 73% |
ただし、プロジェクトBを例にとると、これは、73%の収益が変革の「人」の側面からだけもたらされ、技術的なソリューションからは27%しか収益をもたらさない、ということを意味するものではありません。社員が最終的に変革を受け入れ、活用するためには、技術的ソリューションは健全かつ意図したプロジェクトの収益を提供できるものでなければなりません。言い換えれば、このモデルは、技術的ソリューションが効果的かつ堅牢なものであることを前提にしています。つまり、技術的ソリューションが効果的に設計され、開発され、提供されるという前提のもとで、(プロジェクトBにおける)そのソリューションの社員による「受け入れと活用」は、期待されるプロジェクト価値の73%を生み出します。
チェンジマネジメントのROIを計算する3つのポイント
1. プロジェクトの収益が社員による「受け入れや活用」に依存すればするほど、チェンジマネジメントの貢献は大きくなる
それぞれの変革には、社員の「受け入れと活用」に対する依存度があります。以下のような要因は、プロジェクトにおける社員の「受け入れと活用」に影響を与える可能性があります:
- 影響を受ける社員が少ない vs 影響を受ける社員が多い
- 影響を受ける仕事の側面が少ない vs 影響を受ける仕事の側面が多い
- 単一の場所 vs 多数の場所
- 現状からの乖離が小さい vs 現状からの乖離が大きい
- 漸進的な変化 vs 破壊的な変化
- 慣れ親しんだもの vs 大きく異なるもの
上記の例を念頭に置いて変革の性質を考えてみると、プロジェクトB(業務プロセスの最適化)よりもプロジェクトA(ハードウェアのアップグレード)の方が、チェンジマネジメントの貢献は小さくなります(CMROIが小さくなります)。
2. CMROI分析を開始するには、プロジェクトリーダーや経営幹部から次の2つのデータを収集する必要がある
- プロジェクトの期待収益はどのくらいか?
- そのシステムを受け入れ、活用する社員がいない場合の期待収益はどのくらいか?
これらのデータ自体にも価値がありますが、それに加えて、プロジェクトリーダーや経営幹部と協力してこれらの数字を収集する作業自体にも価値があります。
これら2つのデータがあれば、チェンジマネジメントの貢献を分析し、モデル化することができます。
3. CMROIを数値化することで、人的側面の収益貢献が明確になる
以下に示す数式は、チェンジマネジメントの貢献と価値を具体的かつ定量的に議論するためのアプローチを提供します。人的側面の収益貢献と人的側面の収益貢献度を使うことで、プロジェクトリーダーや経営幹部との有意義で建設的な対話にも繋がります。
【無料】チェンジマネジメントのコストベネフィット分析
変革プロジェクトや変革の取り組みの最終的な目的は、個人が仕事のやり方を変えることです。Prosciや他のソースのデータに基づくと、プロジェクトの成功率はチェンジマネジメントの適用度合いに比例する、という明確な相関性がありますが、それでもチェンジマネジメントへの手厚い投資やコミットメントに否定的な場面に出くわします。チェンジマネジメントのコストベネフィット分析により、プロジェクトにチェンジマネジメントを適用することが「できればいい」戦略ではなく「しなければならない」戦略なのだと確信させてくれます。
著者:ティム・クリーシー (Tim Creasey)
ティム・クリーシーは、Prosciのチーフ・イノベーティブ・オフィサーで、世界的に認められたチェンジマネジメントのリーダーです。組織に成果をもたらす変革の人的側面の分野で土台となる最大の知識体系を築き上げました。