AIとチェンジマネジメントAI in Change Management: Early Findings, Challenges and Opportunities

by Scott Anderson

2024年が始まり、我々は少しずつ人工知能(AI)が組織のチェンジマネジメントに与える影響を把握し始めました。Prosci®は、AIがどのようにチェンジマネジメントに影響するか、変革リーダーがどの程度AIツールを活用しているか、そしてその利用方法や初期段階でのベネフィットについて調査しました。

以下の調査結果は全体の一部にすぎません。私たちはこれからも継続的にこの問題を掘り下げていく予定です。AIが今後ますますチェンジマネジメントに不可欠な要素となることが予測されるため、皆さんも調査結果に関心を持っていただければと思います。

AIとチェンジマネジメントの現状


2023年10月に実施したAI関連調査によると、回答したチェンジプラクティショナーの84%がAIを概ね、またはかなり理解していると回答しました。しかし、実際にAIをチェンジマネジメントに活用していると回答した人は48%にとどまりました。AIツールを活用していない主な理由としては、以下が挙げられました。

これらの理由の上位3つは、一般的な理解不足に起因しています。AIを効果的に使う方法が不明瞭、AIに関する経験不足、未知のリスクに対する不安などです。AIをチェンジマネジメントに活用した事例が不足しているという理由も合わせると、53%もの回答者に影響を与えていました。

「どのようにすれば良いのか分からない。
どこに相談すれば良いのかも分からない。自社での利用が適切かどうかも分からない」

同様に、回答者たちは、AIをチェンジマネジメントに活用するには、ツールやリソースへのアクセスに制約がある、利用可能なツールやリソースに慣れていない、またはそれらをチェンジマネジメント業務にどのように活用すれば良いかわからないと報告しました。信頼できるAIツールへのアクセス、予算不足、組織内の理解不足も障害となっており、16%の回答者に影響を与えていました。

また、時間的制約があり、他に優先順位の高い業務があるため、AIに関する学習を優先できないと回答した人は15%に上りました。

「学習に充てられる時間はない」

データ流出やセキュリティの問題が不透明だと回答した人は8%でした。組織内で使用されるAIシステムの安全性、特にデータの取り扱いや保護について疑問視している回答がありました。

さらに、AIを活用しない理由として、組織の成熟度が低いという指摘もありました。AIをチェンジマネジメント業務に活用するには、チェンジマネジメントに関する専門能力がまだ不十分であるとの回答がありました。

このデータからわかるのは、5年以上のチェンジマネジメント経験がある専門家の方が、経験の浅い専門家よりもAIを活用しているということです。戦略コンサルタント、ビジネスリーダー、プロジェクトマネージャー、エグゼクティブスポンサーなど、特定の分野に特化した専門家の方がAIの利用率が高いことも明らかになりました。

現段階でのチェンジマネジメントにAIを活用するベネフィット


我々の調査ではまず、AIがチェンジマネジメント業務にどのような影響を与えているか、という重要なポイントについて必ず質問をします。

調査結果によれば、効率性の向上や業務管理の改善など多くのベネフィットが報告されています。AIを活用することで、プロセスの自動化、迅速なデータ分析、ブレーンストーミングや提案の支援、コミュニケーションプランやチェンジマネジメントプランの作成、スピーディな対応など、多岐にわたる業務が効率化されています。

ある回答者は、AIを「アシスタント」として活用し、業務管理に役立てていると述べました。

「AIは、私の業務の助手であり、通常なら数時間は要する情報整理や分析をしてくれる。
AIを活用することで、チェンジマネジメントの科学的側面やテクノロジーに関する
知識と理解を深める機会が得られることがわかった」

チェンジマネジメントにおけるAIの活用方法


チェンジマネジメントの専門家たちには、現在、AIツールやテクノロジーをどのように業務に活かしているかについても尋ねました。以下に、彼らが現段階でAIを活用している主な方法を5つ示します。

1. コミュニケーション支援(主に既存のコンテンツ)


  • コンテンツの修正
  • 文法上の疑問解消
  • プレゼンテーションの改善
  • コミュニケーションの質の向上
  • 聴衆に応じた調整
  • 導入部分の提案
  • 口調による印象の確認
  • 聴衆に応じたコンテンツの調整(スライド、画像、テキスト)

例:「リブランディング(rebranding)に取り組む際、CEOから全社員に向けた発表の口調が適切かどうか診断してもらう」

2. コンテンツ作成(主に新しいコンテンツ)


  • トレーニングガイドの作成
  • 特定の業界に特化したケーススタディの作成
  • スライドの開発
  • コミュニケーション下書きの迅速な作成
  • 複雑なトピックを扱いやすい単位に分解
  • 架空のユーザを設定
  • コミュニケーションの要約
  • 創造的な見出しのブレーンストーミング
  • 独創的な声やフォーマットの適用(例:ドクタースーズの詩)

 

例:「個人の役割や影響を考慮しながら、組織変革という複雑なトピックを社員が取り組みやすいタスクに分解する」

3. 戦略や計画の策定


  • 様々な対応策のブレーンストーミング
  • コミュニケーションとトレーニングプランの策定
  • コミュニケーションプランの改善策の提案
  • シミュレーションやシナリオプランの実施
  • 具体的なチェンジマネジメントプランの構築(例:抵抗管理
  • 広報活動としての活用
  • チェンジマネジメントプランの概要の策定

例:「社員を組織改革に関与させる戦略が適切かどうかフィードバックを受ける。特にチームの士気に焦点を当てる」

4. オートメーションと効率化


  • 個別対応型トレーニングのためのチャットボットの準備と質問への対応
  • よくある質問(FAQ)のボットの設置とリソースへの誘導
  • ステークホルダーからのフィードバックや質問への対応のためにチャットボットを構築
  • 仮想ユーザの設定
  • 協力者についての固定概念を再考
  • 個人の態度を分析し予測
  • 説明用ビデオの作成
  • キーワードから一貫性のある文書の作成

例:「新しい人事方針に関するフィードバックを受けるためのチャットボットを作成し、各部署のマネージャーからの質問に回答する」

5. データ分析


  • 調査結果のデータ分析
  • データの集約
  • ビジネスケースの確認
  • 個人データに基づく最新の提案
  • データ分析と解析に基づいたコンテンツのカスタマイズ
  • 業界に特化した情報収集
  • 多様な仮説の検証
  • 鍵となるテーマの分析

例:「新商品の発表に対する顧客のフィードバックをテーマ別に分析し、顧客満足度と改善点をテーマ別に明確にする」

AIとチェンジマネジメントの課題とオポチュニティ


チェンジマネジメントにおいて、AIは無限の可能性を秘めていますが、当然、プラクティショナーにとっては懸念材料もあります。自分の仕事がAIによって置き換えられるのではないか、今使っているAIツールは安全で信頼に値するものなのか、自分が今後も紙とペンで仕事を続けた場合、置いて行かれるのではないか、若手に取って代わられるのではないか、という不安があります。

最近のウェビナーで、ある参加者が放った辛辣なコメントがありました。

「あなたは置いて行かれる…AIを学ぼうとしないのは、インターネットの使い方を学ばないのと同じことだ」

AIを仕事に使いたいかどうかという以前に、多くのチェンジマネジメントの専門家は単にAIツールが何であるのかを知らないのです。それが32%もの回答者がAIツールを全く活用していないと回答した理由だと言えます。

実際、多くの場合、我々は無自覚にAIを仕事で利用しています。一般的な文書の校正ツール、翻訳ツール、感情分析ツールはすべてAIです。スマートフォンのテキスト予測、カスタマーサポートのチャットボット、画面に表示されるパーソナライズされた広告などもAIに基づいています。AIは、顧客管理システム(CRM)の分析ツールやサイバーセキュリティでも活用されています。

それにもかかわらず、世間ではようやくAIの本質やその幅広い用途について学び始めている段階です。

「人工知能の最大の危険因子は、人々はAIをもう理解したと拙速に結論づけることだ」
— アメリカのAI研究者 エリ―ザー・ユドコウスキー

Prosciの調査によれば、回答者の65%が将来、AIが成功に役立つと考えています。しかし、AIとチェンジマネジメントのオポチュニティに関する2年以内の展望について尋ねると、37%が組織のチェンジマネジメントやチェンジマネジメントオフィス(CMO)にとってAIはまだ不完全であると回答しました。裏を返せば、AIにはそれだけの改善の余地があるとも言えます。

現時点では、AIはまだ完全ではありませんが、活用するほどアウトプットの質が向上するということは確かです。実践を積み重ねることで、AIの価値が実感できるはずです。(ティム・クリーシーの言葉を借りれば、「あなたは指示(プロンプト)のエンジニアであることを心に留めるべきだ」) 重要なのは、たゆまず探究する姿勢です。AIはまだ進化の途上にあり、未知の部分も多く、今後の発展が待たれるところです。

ウェビナーの参加者の30%が組織的なAIの活用が急務であると感じているにもかかわらず、他の人々は、悠長に3、6、12か月間ぐらいは、AIがどう発展するか様子見で良いと考えています。

AIをフル活用している人はアーリーアダプターですから、焦ることはありません。事実、エバレット・ロジャースが唱えたイノベーション理論の曲線について彼らに尋ねると、53%の人はアーリーアダプターであることを自認しています。テクノロジーをいち早く試したいタイプの人たちです。実際には、AIをかなり使っている、あるいは大いに使っていると答えた人は、16%に過ぎませんでした。

ProsciのAIとチェンジマネジメントの調査


AIは新たな領域であり、チェンジマネジメントだけでなく、あらゆる分野に影響を与えています。アーリーアダプターたちは既にチェンジマネジメント業務にAIを活用していますが、今後は間違いなく、AIを活用することへの理解が広がり、急速に普及していくでしょう。

なぜこの事実に注目すべきなのでしょうか。今回示したデータは、あくまでも現段階での状況を表すものです。我々は、まだ現状を把握し始めたばかりです。今後のProsciの調査によって、さらに理解が進むでしょう。AIの進化に伴い、我々のAIに関する「生きた調査データ」も進化していくでしょう。今回の調査結果は氷山の一角に過ぎません。


著者:スコット・アンダーソン (Scott Anderson)
スコット・アンダーソンは、Prosciのリサーチ・アンド・アナリティックスのシニア・プリンシパルです。変革の戦略策定者および研究者として、IT、非営利団体、高等教育などの分野で15年間、大規模は変革をリードしてきました。Prosciに加わる前は、ウェスターン・ガバナーズ大学で全組織的なチェンジマネジメントを展開し成功を収めました。ユタ大学にてコミュニケーション論の修士号を、テキサス大学オースチン校でコミュニケーション研究の博士号を取得しました。彼の専門分野は、影響・感化、テクノロジー、組織コミュニケーションです。スコットは、Prosciの認定アドバンスインストラクター(PCAI)の資格を持ち、ビジネスプロセス管理とパフォーマンス評価にも精通しています。