変革を推進するうえで効果的な3つの施策 (実行編)
変革の推進に効果的な施策を紹介しているこちらのコラムですが、今回は第3回「実行」編となります。第1回「プロジェクト準備編」、第2回「プロジェクト立ち上げ編」も公開していますので、ぜひあわせてお読みください。
いよいよプロジェクトの計画に基づいて、様々な活動・作業を行う段階です。プロジェクトによって呼び方は異なるかもしれませんが、今回のコラムでは、この段階を「実行フェーズ」と呼ぶことにします。ちなみに、このフェーズにおける、技術的側面の活動には、要件定義・設計・開発・テスト/検証・展開などが挙げられます。一方で、人的側面(=チェンジマネジメント)の活動は、ADKARマイルストーンのうち、「認知」「欲求」「知識」「能力」を順に高めるためのコミュニケーションやトレーニングなどが中心となります。
実行フェーズからは社員や関係者とのコミュニケーションが本格化するため、様々な反応が起こります。ポジティブな反応もあれば、ネガティブな反応もあるでしょう。ネガティブな反応としては、例えば以下のようなものがあります。
- 「今のままで良いのに…」「変わる必要が無い」と消極的あるいは否定的な態度を示す
- 「会社が決めたことだから…」と嫌々従う
- 「自分には関係のないことだ」と関心を示さない
私たちはこのような状態を「認知」「欲求」が低い状態だと捉えます。変わる理由が分からない、変わりたくない、関心が無い…という状態のまま、後続のマイルストーンである「知識」や「能力」の活動や施策(例えばトレーニングや実践演習)を行っても、十分な効果を得ることは難しいでしょう。
では、どうすればいいでしょうか。そのカギは「欲求」にあります。
変革に関わりたいという「欲求」を高める方法として最も有効なのは、直属の上司からのフォローやコーチングです。社員個人の状況や気持ちに上司が耳を傾け、正しい情報を伝えながら、変革に参加する気持ちを阻害しているものを取り除くことが重要です。今回のコラムでは、上司からのフォローやコーチングに加えて実際のプロジェクトで行った効果的な施策の例を3つご紹介します。
1.自らの言葉でアウトプットする機会を提供する。
ADKAR Modelにおいて、「欲求」は、「認知」の次に来ます。変革の目的や目指す姿が周知され、「認知」の達成が確認できたら、次に目指すべきは「欲求」です。
「認知」の段階で行う多くのチェンジマネジメント活動は、社員にとって“インプット”(例えば、文書・メール、説明会、ポスター掲示、広報のための動画など)の形式がとられます。「欲求」を高めるためには、インプットされたメッセージの意図を理解し納得することが必要です。そのため、受け取った情報をもとに自らの言葉で考え、他者と意見交換する“アウトプット”の機会を設けることをおすすめします。例えば、効果的な方法の1つに「数名単位のグループディスカッション」があります。
グループディスカッションによるメリット:
- 「認知」の段階で受け取った情報(トップからのメッセージ、変革の目的等)を咀嚼する良い機会となる
- 自分の言葉で意見や考えを述べることで、当事者意識を高めることができる
- 自分以外の社員の考えや意見を知ることができる。また、他の参加者やオブザーバーからのフィードバックをもとに自分の考えを修正できる
- グループ内での認識が共通のものとなり、一定のレベルまでグループの理解レベルを高めることができる
実際にグループディスカッションを行った事例では、参加者からポジティブな感想を得られただけではなく、ADKAR Modelの「認知」「欲求」のスコアを高めることが出来ました。
2.コミュニティメンバーとともに推進する。
変革に積極的な方々を中心としたコミュニティを作ることも「欲求」を高め、変革を活性させる方法の1つです。私たちは、そういったコミュニティメンバーを「チェンジエージェント(あるいは、チェンジエージェントネットワーク)」と呼んでいます。もしかすると、アーリーアダプターやエバンジェリストという呼び方がしっくりくる場合もあるかもしれません。
実行フェーズの序盤でチェンジエージェントとなるメンバーを募り、役割に応じたアクションをしてもらいます。所属組織や職階によらず広く募集をかけ、社員自身の意志で申し込みをしてもらうことが理想ですが、特定の組織や職階に属する社員で構成することも可能です。ただし、その場合、意欲的なメンバーを集めるようにすることをおすすめします。
チェンジエージェントには、プロジェクトと現場の「架け橋」になってもらいます。スポンサー等が発信した情報を現場にさらに浸透するように働きかけ、また、プロジェクトからは把握しづらいリアルな現場の状況や声などをプロジェクトに伝達してもらうことが主な役割です。新たな変化(例えば新しいシステムやツール)を先駆けて体験してもらい、その体験談をニュースレターや社内SNS等で発信することで、他の社員の興味や意欲を高めるきっかけづくりに貢献してもらったという事例もあります。他にも、チェンジエージェントにプロジェクトを象徴したオリジナルのTシャツを社内で着てもらい、社員間のコミュニケーションのきっかけづくりや広報活動に貢献してもらうといった面白い取組みもあります。
ただし、チェンジエージェントの発足自体は、その他の社員の「欲求」にすぐさま反映されるとは限りません。一定期間の活動を通じて、社員全体の「欲求」の向上や持続に少しずつ繋がっていきます。ご自身のプロジェクトで取り入れられそうなものがあれば、ぜひ参考にしてみてください。
3.社員に意思決定の一部に関与してもらう。
変革に関心が低い社員が多い場合には、変革の一部に関与してもらう方法が効果的です。例えば、「働きやすく魅力的な職場づくりを目指した変革」をテーマにしたプロジェクトでは、働きやすい職場を実現するための意見や要望を社員に求めました。また、社員の声を最大限反映しようと試みた結果、興味や当事者意識を高めることができ、変革に対して前向きな状態を作り出すことが出来ました。
ただし、変革のテーマによっては社員が意思決定に関与しづらいものや、関与の余地が無い場合もあるでしょう。その場合は、やや間接的な方法にはなりますが、プロジェクトの通り名や新しいシステムやツールの愛称を決める投票の機会を作ったり、新システムのプロトタイプに触れてもらい、フィードバックを集めるといった参加しやすい方法もあります。
今回のコラムでは、実行フェーズにおける「欲求」に焦点を当て、いくつかの事例の中から一部をピックアップしてご紹介しました。皆様の活動や施策のご検討において、少しでも参考になればと思います。
日本アタウェイ株式会社では、今回ご紹介した以外の事例やコンサルティングサービスのご案内も承っております。ぜひお気軽にお問合せください。
【無料】チェンジマネジメントの基礎知識
組織の変革プロジェクトが技術要件とマイルストーンを満たしていたとしても、目標と成果を実現できない可能性があります。これは何故でしょうか? 答えはチェンジマネジメントです。チェンジマネジメントを採用している組織は、予定どおりまたは予定より早く、予算内で、プロジェクトの目標を達成する可能性が高くなります。これは、データからも明確に示されています。
著者:根本 佳代子 (ねもと・かよこ)日本アタウェイ グローバルコンサルティング事業部 マネージャーERP導入コンサルタントとして国内外の大規模プロジェクトに従事し、システム導入やIT部門支援などの複数のプロジェクトのPMやPMOを担当。プロジェクトマネジメントの経験からチェンジマネジメントや「人」の支援の重要性を強く感じ、2018年に日本アタウェイで米プロサイとのパートナーシップ構築に関わる。現在、国内外のクライアントの変革施策においてチェンジマネージャーとして多くの変革施策を成功に導いている。