将来の職場を構築するためにリーダーたちが向き合う問題Questions Leaders Must Ask to Create a Workplace of the Future

by Tim Creasey

世界的なパンデミックは、多少の違いはあれ、ほぼ瞬時にリモートワークを世の中にもたらしました。しかしその後、組織が職場復帰を検討する際、リーダーたちはいくつかの重要な問題に向き合わなければなりません。最も重要で勇気のいる決断は、パンデミックによって生まれた可能性を探求するかどうかという問題です。もし可能性を探求すると決めるならば、コロナ禍で学んだことを生かし、将来の職場のイメージ転換に成功できるのではないでしょうか。

職場復帰に関する問題提起


最近、私は同僚とよく次のフレーズを使っています。「答えには賞味期限があるが、質問の賞味期限は半永久である」。これは、パンデミックの状況が場所によって異なり、常に変化しているため、方針もしばらくは揺れ動かざるを得ないかもしれないからです。しかし、正しい質問を知り、繰り返し問いかけることができれば、職場復帰の計画は成功するでしょう。

コロナ禍の初期段階から、Prosci®は職場復帰と職場のイメージ転換について調査を行い、様々な業種の企業や組織の戦略的な変革リーダーたちと意見交換を重ねてきました。この豊富な経験から、現在可能な職場態勢を最大限に活用するためには、組織のリーダーたちは大きく3つの問題に対処しなければならないことが分かってきました。

1. 振り返り


自分たち、また組織について学んだことで、コロナ禍後の成功に活かせることは何か

パンデミックは痛みと苦しみをもたらしましたが、その中には多くの学びがありました。これらの学びを振り返り、新たに身につけた能力やコンピテンシーに目を向ければ、将来の職場のイメージ転換に活かすことができるでしょう。

「離れて」仕事をしていた時に困ったことで、「共に」仕事をするのを待ちきれなかったことはどんなことか

離れて仕事をしていた経験を振り返れば、共に仕事をする大切さを真に理解できます。また、共に仕事ができる貴重な時間を将来の職場のイメージ転換に活かすことができるでしょう。人とのつながりや思いがけない発見、付箋やフリップチャート用のペンの匂いなど、そうした要素が大切だと気付くでしょう。これらの欠かせない要素を思い出し、今後の可能性に活かしていくことができます。

以前は不可能と思われていたことでコロナ禍でも やってきたことは何か

この問題はパンデミックの初期段階で、一夜にして一緒に働くことから離れ離れに働くことへと切り替わった際に、人々が発揮した不屈のレジリエンスに目を向けることを意味します。全く新しい制約に対応するため、人も組織も以前では想像すらできなかった多くのことを成し遂げました。食品の宅配、Zoom会議、そしてバーチャル結婚式などが現れました。パンデミックを耐え忍ぶために多くの想像力が必要でしたが、出来ることを考える間もなく前倒しで行い、新しいやり方を人々が受け入れたということは大きな発見でした。

2. 誰が、何を、いつ、どこで


誰が職場に復帰すべきで、どの仕事なら共有スペースの方が効率が良いのか検討しているか

これらは共有スペースに戻る際、慎重に考慮すべき事柄です。制約がなくなり、現在出来ることを考える場合、全く新しい視点が必要です。誰がオフィスに戻るかにばかり着目すると、保守的な思考に陥ります。つまり、それはかつての職場に戻ろうとする考え方です。私たちは頭を白紙にし、共有スペースで最も効果を発揮する仕事は何かに重きをおいて考えるべきです。新たに得た可能性や能力を活かすべきですし、同じテーブルに着く、フリップチャートやホワイトボードの脇で説明するといったことが可能なら、その最大限の利点は何なのかをはっきりとさせることが大切です。また、それによって、在宅勤務期間中に人々が享受した柔軟な働き方を、再び継続する余地が生まれます。

オフィスは何のためにあるのか、達成すべきは何か

実業家であり作家であるセス・ゴディン氏は、ある物が何のためにあるのかを認識することは、その物がもたらす価値を手に入れることにつながると言います。彼は、ランチのケータリングを引き合いに説明しています。親しい友人、上司、好きではないが自分に影響力のある人など、あなたが誰のために何のためにケータリングを催すかによって、選択肢が変わってきます。オフィスが本当に何のためにあるのか、その本質的な目的を明確にすることで、オフィスが付加価値を提供していない場合や、本当に価値を高めることができる場合を見極めることができます。かつての「仕事をするために行くべき場所」というお決まりの答えはもはや当てはまらなくなったと考えています。オフィスの意義や役割が変わりつつあるということを示唆しています。

「どこでする」はどういう場合に問題になるのか

職場復帰のアドバイスをする仕事をしていた時、ある大学はスペースの問題から、どの授業を対面にし、どの授業をオンラインにしようかと協議していました。彼らは一つ一つの授業について検討していました。この授業の「どこでする」は問題になるか、この授業を教えるのに物理的なスペースは必要なのか、といったことです。解剖実験の授業には物理的スペースが必要でしょうが、18世紀のフランス文学を教える場合にはその必要性ははるかに低いはずです。

私たちの仕事のうち「どこでする」が問題になるのはどういった場合か、私たちの仕事のうち「どこでする」が問題にならないのはどういう場合か

さらに一歩進んで、共同作業と構築的作業を区別する必要があります。それには材料と環境の重要性を考慮し、人々が仕事をする上でそれらをどの程度必要とするかも考えるべきです。例えば、写真技術を考えてみましょう。カメラと被写体のある場所で撮影する必要があるのは共同作業ですが、デジタル画像を編集するのはどこでもできます。特定の仕事は共同で行った方が望ましい一方、個別に仕事をしても生産性に問題がないものもあります。仕事の性質を理解すれば、職場のイメージ転換において間違いのない判断ができるでしょう。

3. 戦略的英断


共有スペースを取り戻す際、組織が戦略的真価を発揮するのはどういう側面においてか

これこそが私たちが決断を迫られている共有スペースについての真の問題です。それぞれの業務上の役割にとって「どこでする」が問題になるかどうか、「どこでする」がどの程度問題になるかを意識的に問いかけることで、スペースをどのように使いたいか、創造力をもって考える自由度が上がります。柔軟な考えや人々の様々な要望を引き出す余地が生まれます。共に働く貴重な時間を最大限に生かすことができるのです。戦略的にとは、コロナ禍で身につけた新たな能力を活かし、将来に向かって社員や組織が進む上で、望ましい態勢を創造的に設計していくという意味です。戦略的な職場復帰の真逆は、大急ぎで元通りの態勢に戻ろうとする動きです。

取り戻した共有スペースを最大限に活かす方法は何か

オフィスに戻る機会が生まれたら、私たちは単に大急ぎで戻るのか、あるいは、戦略的に取り組み、共有スペースがどこにあり、なぜ共有スペースが存在し、共有スペースがどのような価値を発揮できるのかについて協議するのか、どちらでしょうか。オフィスが複数の地方にあってそれぞれ事情が異なる場合、しばらくは、対面とバーチャルのハイブリッドなミーティングをする必要があるでしょう。どうしたらそれを円滑に行えるか、どうしたら皆が納得できるでしょうか。

組織の権力構造の中で仕事を行う場所の決定権はどこにあるのでしょうか

組織によって、この質問に対する様々な回答があります。中には決定がされていない場合もあります。外科医やその他のエッセンシャルワーカーたちは、100%職場での勤務が暗黙の了解とされています。一方で、地方にいる、特にオフィスを構えていない社員は、本社を訪れる場合を除いては完全にリモートで仕事をすることもあります。しかし、これらの極端な例を除けば、ほとんどの職場では組織内のどこかのレベルで何らかの決定を行う必要があります。個々の社員が決める場合もあれば、トップが決める場合もあり、あるいはその中間(例:チーム、部署、部門)が決める場合もあります。

オフィスワーク、リモートワークの運用基準は何か

この答えも、完全なオフィス勤務から完全なリモート勤務まで幅があります。最も一般的なハイブリッドの形態は、社員が交替で決まった曜日や時間帯に出社する「スケジュール別ハイブリッド型」または社員が出社日を自ら選択する「申告制ハイブリッド型」です。出社日は週に2日、3日から四半期に1日など、さまざまなスタイルがあります。このように運用方法を決めても、組織は依然として多くの問題に対応し、ハイブリッドな職場の形態を計画する際に考慮すべき点をクリアしていかなければなりません。

リモートで続ける業務を円滑に行うために組織が今後も変革し続けるべき点は何か

パンデミック初期の貴重な学びを私たちはともすると忘れがちです。ですが、心して、それらの学びを風化させることなく、この1年半で築いた信頼関係を守るべきです。大急ぎで元の状態に戻ろうとすれば、私たちの成長や学びは無駄になってしまいます。どこからでも仕事ができる能力を獲得したのですから、リーダーたちはぜひ、その柔軟性を迷うことなく活用してください。

従来の職場に戻したくなる衝動を抑えるにはどうしたらよいか

この重要な問題に答えるには、変革がもたらす成果に目を向けてみましょう。例えば、ある組織は大人数の対面ミーティングを企画して、その成果を思い描いていましたが、バーチャルミーティングであれば、小グループからより協力が得られ、情報もより効率的に集まることがわかりました。質問しやすく、実直に回答できたことで期待以上の成果を上げることができました。出社者と在宅者の混在、ハイブリッドな職場といった混乱に対応するために、組織がこのアプローチを忘れてしまうと、せっかく社員たちが可能にした新しい態勢を認めずに変革の成功を達成できなくなるリスクが生じます。

将来の職場を受け入れる


元通りの職場に戻るということはあり得ません。ハイブリッドなソリューションを探り、「場所」を柔軟に定義することの価値に気づき、イメージ転換するしかないのです。これらの問題にリーダーたちが向き合えば、イメージ転換した職場、社員たちが望む職場、組織が提供できる最も生産性の高い環境を実現できるでしょう。不屈の精神、柔軟さ、信頼関係を持ちながら、私たちはこのパンデミックの経験で得た学びと成長を意識的に活用していかなければなりません。


著者:ティム・クリーシー(Tim Creasey)

プロサイ(Prosci)のチーフイノベーションオフィサー(CIO)。チェンジマネジメントのオピニオンリーダーとして、世界的な評価を受けている。変革の人的側面を管理し、組織としての結果を生み出すことに関して、世界最大規模の知識体系基盤を形成している。