変革を推進するうえで効果的な3つの施策 (Go-live後定着編)
変革を推進するうえで効果的な施策を紹介しているこちらのシリーズですが、最終回となる今回は「Go-live後定着」編です。過去のコラムに、第1回「プロジェクト準備編」、第2回「プロジェクト立ち上げ編」、第3回「実行編」も公開していますので、ぜひあわせてお読みください。
さて、今回のコラムでは、Go-live後の定着フェーズについて詳しく取り上げていきます。このフェーズは、新たなシステムの稼働や新しいプロセスや制度の導入が始まってから、変革の目的を達成するまでの期間を指します。
このフェーズは、切替や開始に伴う混乱が起こりやすい期間でもあります。また、新たなシステム、プロセス、制度等を導入したとしても、社員が以前のやり方に戻ることや、自分にとって快適な代替手段を見つけようとすることも起こり得ます。そのため、変革を推進する立場にいる私たちは、社員一人ひとりが新たなやり方を受入れ、身に着け、活用しているかどうかを確認する必要があります。私たちは、「Go-liveはゴールではなく、通過点である」と考えており、Go-live後も目的の達成のためにチェンジマネジメントの活動を継続します。なぜなら、真のゴールは目指す姿を実現出来た時点であると信じているからです。
しかしながら、実際にはどうでしょうか。最新のProsciのベストプラクティス調査(2023年)によると、Go-live後の定着や維持のためのリソースを確保できていると答えた回答者は約半数にとどまっており、定着後の活動を十分に実施できているプロジェクトは少ないことが分かります。さらに、以下のような困難に直面している方もいるかもしれません。
- Go-liveをゴールと位置付けており、それ以降のアクションが計画されていない。
- Go-live後、当初の目標を達成できているか確認していない。
- プロジェクトの状態から日常業務の状態に移行する準備が整っていない。プロジェクト体制から日常業務体制への引継ぎ等が十分に行われていない。
- プロジェクトに関与していたメンバーや変化の影響を受けた社員が疲弊している。
そこで、今回のコラムでは、変化を定着させるための具体的な施策について、実際の事例も交えながら3つご紹介します。
1.達成度合いを確認する。
変化を定着させ、成果を持続させるためには、Go-live前に、Go-live後数か月間のアクションプランやモニタリングの方針を策定することが重要です。チェンジマネジメントの観点では、「人」の側面における達成度合いを確認します。定着を図るためには、変化の影響を受ける個人が新しい方法を継続的に実施できているか、将来的にも続けられる見込みがあるかどうかを確認しながら、仮説検証のサイクルを回すことが重要です。なお、変化後の状態を持続させるための活動は、短期間で完了するものではなく、プロジェクトが掲げた目的や目標の達成が確認できるまで継続的に行う必要があります。
「人」の側面における達成度合いの確認方法の例:
- アンケートやヒアリングを実施して状況を確認する。
- 新システムの利用状況を確認する。
- 問合せ件数を確認する。(ヘルプデスク問合せ数、ヘルプページの閲覧数など)
- 従業員満足度調査のスコア推移を確認する。
弊社の支援事例の中で、システム導入に伴うチェンジマネジメントのケースにおいて、「人」の観点から達成度合いを確認した事例をご紹介します。このプロジェクトでは、ADKAR® Modelに基づくアンケートを設計し、実行フェーズからGo-live後の定着フェーズまで複数回に渡るアンケートを全社員(約300名)に実施しました。アンケートの結果をもとにADKARスコアを可視化し、バリアポイント(障壁となっている要素)や課題を特定し、是正アクションを行いました。また、Go-live後の定着フェーズでも同様のアンケートを継続し、ADKARのスコア推移を確認することで、変革が社員に受け入れられ、定着しているかどうかを把握しました。その結果、アンケート結果や社員の声を基に実態に即したアクションを実施したことで、定着のスピードを向上させることに貢献しました。
2.PJ体制状態から日常業務状態へ移行する。
繰り返しになりますが、Go-liveは通過点です。新たなシステム、プロセス、制度などが日常業務の中でしっかりと根を張り、価値を実現できたタイミングこそが変革のゴールでと捉えています。しかし、Go-live後すぐにプロジェクトの体制が解散となり、その後のサポート体制が整備されていないケースもあるかもしれません。
プロジェクト状態から日常業務状態へのスムーズな移行と権限の移譲は、定着を実現するための鍵となります。特に、プロジェクト体制下で蓄積された知識やアセット(ドキュメント、教材、データベース等)を日常業務の状態においても有効活用できるようにすることが重要です。例えば、これらの取組みが挙げられます。サポートの仕組みを整える(マニュアルやFAQの提供、ヘルプデスクの設置や引継ぎ、問合せ先の整備と明確化等)、プロジェクトの解散後も運用に支障がないように適切な担当者や部門に引継ぎを行う、チェンジマネジメントの活動を継続できるようにスモールチームを維持する、または、自律的な有志のコミュニティを維持するなどです。これらのアクションを円滑に行うためには、Go-live前の段階からGo-live後を見据えて、計画を綿密に立てて準備しておくことが必要です。
3.Go-liveを祝福する。
Go-liveは一つの通過地点であり、同時に重要なマイルストーンでもあることは確かです。また、「祝福」「称賛」は定着のフェーズにおける推奨アクションの1つです。変革に関与した社員の努力に寄り添った称賛は、組織の結束を高めるだけでなく、新たな変革への挑戦の源ともなります。弊社がサポートしたケースでも、お客様企業のトップや組織のリーダーは社員全体に対し、これまでの努力や挑戦を認め、称賛を示すようにお伝えしています。
称賛の方法としては、個人に対しては上司との1on1ミーティングの機会を活用し、個人の努力や貢献に対する感謝の気持ちを伝えることがおすすめです。また、組織全体に対しては、既存の会議やミーティングなど公式の場を利用し、企業や組織のトップが称賛や感謝の意を伝えることが良いでしょう。トップが社員のこれまでの成果や貢献を適切に評価していることを明示することが重要です。また、文書ではなく、直接的な対話が可能な形式で顔が見えるコミュニケーションを行う方が望ましいです。
現在、多くの企業が変化の波にさらされ、様々な変革の取り組みを行っています。そのような状況を踏まえると、個々のプロジェクトや取り組みの区切りを明確に意識し、それまでの努力や貢献を褒め称えることは、”変革疲れ”を防ぐ意味でも重要なアクションと言えるでしょう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。本シリーズは、過去の無料セミナーでお話した内容をもとにコラム化したものになります。弊社では、チェンジマネジメントに関する無料セミナーのご提供も行っています。無料セミナーに関する情報は、ニュースレター(無料)でご案内しております。
また、今回のコラムでご紹介した事例の詳しいご説明や、チェンジマネジメントサービスのご説明もこちらより随時承っております。ぜひお気軽にお問合せください。
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組織の変革プロジェクトが技術要件とマイルストーンを満たしていたとしても、目標と成果を実現できない可能性があります。これは何故でしょうか? 答えはチェンジマネジメントです。チェンジマネジメントを採用している組織は、予定どおりまたは予定より早く、予算内で、プロジェクトの目標を達成する可能性が高くなります。これは、データからも明確に示されています。
著者:根本 佳代子 (ねもと・かよこ)日本アタウェイ グローバルコンサルティング事業部 マネージャーERP導入コンサルタントとして国内外の大規模プロジェクトに従事し、システム導入やIT部門支援などの複数のプロジェクトのPMやPMOを担当。プロジェクトマネジメントの経験からチェンジマネジメントや「人」の支援の重要性を強く感じ、2018年に日本アタウェイで米プロサイとのパートナーシップ構築に関わる。現在、国内外のクライアントの変革施策においてチェンジマネージャーとして多くの変革施策を成功に導いている。