あなたの組織は変革に対するレジリエンス(適応力)を過大に評価していませんか?Is Your Organization Registering a False Positive on Change Resilience?

by Ron Stewart

多くのエグゼクティブやシニアチェンジリーダーたちとの対話から、コロナ禍において人々が在宅勤務にスムーズに移行できたことで、多くの組織が人々に変革に対するレジリエンス(適応力)があると勘違いしていることがわかりました。問題は、このレジリエンスに対する誤った見解が、エグゼクティブたちに意図せず変革を導入する権限があるかのように思わせてしまうことです。コロナ禍の経験を経て、組織が変革に対する高いレベルのレジリエンスを身につけたと考えることには、リスクが伴う可能性があります。

在宅勤務への転換モデルが変革に対するレジリエンスの表れではないと言える3つの理由


世界的なパンデミックにより個人が新しい仕事のやり方を受け入れる状況と、組織の変革に個人が賛同して受け入れることの違いを理解するために、相違点を見てみましょう。

1. Awareness(認知)は明白で急を要した


全組織的なプロジェクトや変革を提唱する際、牽引役となるプライマリースポンサーの責任として真っ先に行うべきことは、変革の必要性についてのAwareness(認知)を高めることです。スポンサーは、影響を受けるグループに対して、「なぜ」「なぜ今なのか」「変革をしなかった場合のリスクは何か」という疑問に明確に答えていく必要があります。

パンデミックによってもたらされた変革の必要性のAwareness(認知)は、世界的なリーダーや保健衛生専門家などの外部の「スポンサー」から触発されたものでした。コロナ禍の中では、エグゼクティブが時間をかけてバーチャルで業務を行うことを丁寧に説明する選択肢はありませんでした。その理由は明白で、変革の必要性は外部の緊急事態に連動したものでしたからです。

Prosci ADKAR Model

2. Desire(欲求)は自ずと高まった


個人の変革のプロセスにおいて、2番目のステップはDesire(欲求)です。この段階では、ようやく社員が変革に関わり、前向きになります。それまでは、変革に抵抗するか、最低限の関わりでしぶしぶ流れに乗る状態、言わばMVE(Minimal Viable Engagement)でした。MVEの状態は、社員が表向き取り組んでいるように見えても、実際には何の助けにもなっていない、困った状態を指します。Desire(欲求)とは、変革が「私にとって何の利益があるのか」を理解することで生まれます。コロナ禍で生じた在宅勤務のDesire(欲求)は、個人の変革理論や組織の変革理論とは無関係でした。社員が容易にリモートワークを受け入れた理由は、チェンジマネジメントの本に書かれているような一般的な理論では説明できないものでした。

その理由を理解するには、もっと基本的な点に立ち返って考えるべきです。マズローの欲求階層説が参考になります。基本的に、個人の健康や安全に関わる時、Desire(欲求)は自分自身の内部から生まれてくるものであり、直属の上司が業務上の役割や業務プロセスの変更を説明したから生まれるという性質のものではありません。「とりあえずやる」で在宅勤務が急速に実現できたからと言って、個人が新しい業務プロセス、ツール、報告システム、報酬モデルなどをすぐに受け入れられるかと言えば、それは間違いです。

マズローの欲求階層説

3. 仕事のやり方は変わらなかった


多くの人は、リモートワークになっても、オフィスにいた時と同じ業務担当をし、同じチームメンバーと仕事を続けました。外部の状況によって、Awareness(認知)とDesire(欲求)の両方が整い、在宅勤務への移行をスムーズに受け入れることができました。多くの人にとって、パンデミックの混乱から気を紛らわす、あるいは避けるために、仕事は好都合でした。どのように対応したのかと尋ねると、社員はほとんどが「あるがままに受け入れた」と答えました。しかし、これは変革に対する本当のレジリエンスではありません。

エグゼクティブは、自分の組織が変革を導入するには、意識的で体系的なアプローチを適用する必要はないと、もっともな理由を挙げるかもしれません。しかし、COVID-19のパンデミックで社員たちのリモートワークへのシフトがうまく行ったことは、その理由の一つにはなりません。何千もの議論や20年にわたる調査結果からわかることは、変革の取り組みを支援するための時間をエグゼクティブスポンサーに割いてもらい、彼らの関心を引きつけることが、チェンジプラクティショナーたちが直面する唯一かつ最大の課題となっているということです。

本当の変革に対するレジリエンスを測る


レジリエンスはどう測ればいいのでしょうか。レジリエンスとは、時間をかけて個人が変革のプロセスを成功裏に進む中で構築されるものです。変革の影響を受ける特定のグループがレジリエンスを持っているかどうかを探るには、そのグループが過去に経験した変革に注目し、実際に仕事のやり方がどう変わったのかに着目しなければなりません。パンデミックによる在宅勤務へのシフトでは、多くの人にとって、仕事の場所が変わっただけでした。しかも、新たな仕事場は彼らにとって馴染みのある場所だったわけです。基本的に、仕事には10の特有の側面があります。場所に始まり、プロセス、ツール、報告体制などが含まれます。

組織の変革が人々にどのように受け止められるかを予測するには、業務のどの側面が変わるのかを理解することが非常に重要です。また、影響を受けるグループが過去にどのように変革を受け入れたかを理解する必要があります。特に、類似の業務側面に影響を与えた変革に注目すべきです。変革の受け入れに関しては、過去の事例が今後の最大の指標になると言えます。

言い換えると、直近の変革の成功に頼ることは、その成功の真の要因を詳しく理解していない場合や、導入された変革の本質を理解していない場合は避けるべきです。

あなたのプライマリースポンサーを教育しよう


変革に対するレジリエンスがあると思い込み、エグゼクティブは変革の取り組みに時間を費やしたり、目に見える形で支援したりする必要はないと勝手に結論づける危険性があります。これは、組織が今後発展する上で欠くことのできない複雑な変革を導入する際のリスク要因です。あなたがチェンジプラクティショナーとして、エグゼクティブたちに対して本当の変革に対するレジリエンスとは何か、そして、それを効果的なチェンジマネジメントにより時間をかけて構築する方法を教育することで、この問題を回避することができます。

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著者:ロン・スチュワート (Ron Stewart)
ロン・スチュワートは、Prosciカナダの社長です。スピードを要する、高度な変革プロジェクトを取締役会と共に取り組んだ実績があり、コンサルティング、起業、企業開発、組織デザインなど多岐に渡る分野で顧客に対応してきました。変革力構築のエグゼクティブコーチとして、またソートリーダーとしても活躍し、企業向け講演会の演壇にも数多く立っています。