ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)による効率化の追求How To Boost Efficiency With Business Process Reengineering
by Quentin Orsmond
ビジネスは常に、戦略目標に沿って改善、革新、効率化を進め、競争力を維持する必要があります。しかし、業務プロセスや組織構造の段階的な変革では限界があり、時には抜本的な見直しが求められることもあります。
ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)は、組織に新しいプロセスやシステムを導入し、パフォーマンスの向上と望ましい成果の実現を目指すアプローチです。
この記事では、BPRの基本的な仕組みやそのベネフィット、最大限に活用する方法について解説します。また、BPRを成功させるために、なぜチェンジマネジメントが重要なのか、どのようにサポートするのかについても触れています。
ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)とは?
BPRとは、コスト、品質、サービス、スピードなどの重要な指標を改善することを目的に、ビジネスの中心的なプロセスを抜本的に見直す管理戦略です。
企業がBPRを実施する理由は様々ですが、以下はその一例です:
- パフォーマンスの改善と競争力の向上
- 現行プロセスの高度化
- カスタマイズされたサービスによる顧客満足度の向上
- AIやクラウドソリューションなど、テクノロジーの進展によるデジタルトランスフォーメーションの実施
- コスト削減
- リソースの最適活用
BPRはなにも新しい概念ではありません。何十年も前から成功している組織にとっては不可欠なものでした。例えば、フォード社は1990年代に支払いプロセスのリエンジニアリングを行い、会計業務を合理化して精度を向上させました。
BPRが成功するためには、強力なリーダーシップと明確なコミュニケーションが不可欠です。シニアマネージャーやプライマリースポンサーは、変革の技術的側面と人的側面の両方を理解している必要があります。これにより、新しいシステムの意義が伝わりやすくなり、それぞれの役割を適切に果たせるようになります。
BPRは業務プロセス、役割、構造に影響を与え、組織の運営を根本的に変えるため、チェンジマネジメントが不可欠です。
ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)のベネフィット
BPRの主なベネフィットは以下の通りです:
- コスト削減 — 基幹ビジネスオペレーションの合理化により、不要な業務プロセスを削減し、リソースの効率的な活用を促進します。その結果、オペレーションコストが大幅に削減されます。
- テクノロジーの最適化 — BPRは、業務プロセス改善のために新しいテクノロジーを統合することが多く、デジタルトランスフォーメーションを促進します。これにより、ソリューションの活用が進み、業務プロセスの改善やビジネス戦略の強化につながります。
- 効率化 — 業務フローを簡略化し、ボトルネックを解消することで、プロセスがより迅速かつ柔軟になります。生産時間の短縮や増産が可能となり、顧客対応のスピードと効果が向上します。
- エラーの削減 — BPRはエラーや矛盾を発見し排除するのに役立ち、より高品質な製品やサービスの提供が可能になります。これにより、顧客満足度が向上し、顧客の定着率も上がります。
- 柔軟性と拡張性 — BPRはビジネスプロセスを柔軟にし、市場の需要に迅速に対応したり、新しいテクノロジーを導入しやすくします。これは今日のビジネス環境で非常に重要です。
- 顧客満足度の向上 — 顧客目線でプロセスを再設計することで、BPRは顧客満足度の目標を達成または上回ることができます。品質向上や迅速なサービス提供により、高い顧客満足度を実現します。T-Mobileが顧客満足度向上を目指して専門チーム(TEX)を導入した事例は、その成功例です。
- 競争力の強化 — 製品の品質向上、コスト削減、顧客サービスの向上により、組織の競争力が強化されます。常に改善が求められる競争の激しい業界では、これらは強力な武器となります。
- 社員満足度の向上 — ビジネスプロセスの改善により、単調でやりがいのないタスクが減少し、社員の満足度が向上します。社員はより重要でやりがいのある仕事に集中できるようになり、士気と生産性の向上が期待できます。
- 意思決定の改善 — 抜本的な再設計は、貴重なデータや示唆を明らかにし、意思決定の質を向上させます。企業は、プロセスのリエンジニアリングと関連データの分析を通じて、戦略目標を達成するための意思決定により説得力を持たせることができます。
ビジネスプロセスリエンジニアリング vs. ビジネスプロセスマネジメント
ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)とビジネスプロセスマネジメント(BPM)は、どちらもオペレーションの効率化を目指す方法論ですが、そのアプローチは大きく異なります。この二つの手法はしばしば混同されがちですが、それぞれに固有の利点と特性があります。
ここでは、両者を比較し、4つの重要な領域から違いを見ていきます。組織の目標に最も適した手法を選びましょう。
ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR) vs. ビジネスプロセスマネジメント(BPM)
ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)
BPRは、組織のプロセスを短期間で劇的に改善するために、抜本的な変革を行う手法です。
- アプローチ — BPRはプロジェクトベースで行われ、現行プロセスに対して段階的に変革を施すのではなく、抜本的かつ大規模な変革によりプロセス全体を再設計し、パフォーマンスを大きく向上させます。
- 導入方法 — BPRの導入には、強力なリーダーシップ、明確なビジョン、そして豊富なリソースが必要です。これにより、現行のオペレーション、組織構造、文化に対する大規模な変革を行います。
- テクノロジーの位置づけ — BPRでは、新しい業務プロセスを可能にするためにテクノロジーが重要な役割を果たします。
- リスクレベル — 変革の規模が大きいため、BPRプロジェクトは高いリスクを伴いますが、その分高いリターンも期待できます。
ビジネスプロセスマネジメント(BPM)
BPMは、ビジネスプロセスを継続的に評価し、改善するための長期的な管理手法です。
- アプローチ — BPMは現行プロセスを分析し、段階的に手を加え、最適化することで、継続的な改善を目指します。
- 導入方法 — BPMでは、パフォーマンスを継続的に評価・分析するためのプロセスやツールを開発し、データに基づく改善を進めます。
- テクノロジーの位置づけ — BPMでは、テクノロジーは主にプロセス改善のために活用されます。
- リスクレベル — BPMはBPRに比べてリスクが低く、ベネフィットは時間をかけて徐々に得られます。
短期間で劇的な変革を必要とする組織にはBPRが適しています。一方、時間をかけて段階的に改善を図りたい場合にはBPMが相応しいでしょう。組織のニーズに応じて、これらの手法を使い分けることが重要です。
どちらの手法を選ぶにせよ、変革の成功にはリーダーシップ、社員、そしてステークホルダーを巻き込んだ効果的なチェンジマネジメントが不可欠です。
ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)の手順
ビジネスプロセスの再設計の一般的な手順を以下に簡単に説明します。
- 始動 — 最初に、BPRチームを立ち上げ、ビジネス戦略に沿った目的とフレームワークを明確にします。その後、プロジェクトに対するエグゼクティブの支援を取り付け、必要なリソースを確保します。
- 現行プロセスの分析 — BPRチームは、パフォーマンスや顧客満足度、ビジネスの成果に影響を与える重要なプロセスを特定します。現行の業務フローを分析して、インプットやタスク、インタラクションを洗い出し、遅延や顧客の不満の原因となる無駄な業務を見つけます。
- 新しいプロセスモデルの設計 — BPRチームは、現状の制約を超えて、業務を完了する新しい方法を再考します。従来の慣習にとらわれず、プロセス全体を見直し、テクノロジーを活用した効率的で顧客重視の新しいプロセスを設計します。
- 新しいプロセスの導入 — チームは、導入のスケジュール、必要なリソース、役割、責任を盛り込んだ詳細なプランを策定し、新しいプロセスを導入します。この段階で、チェンジマネジメント戦略を展開して移行をスムーズに管理します。
- 成果の評価と反復 — 新しいプロセス導入後、事前に設定した目標とBPRの成果を比較し、オペレーションの効率性、コスト削減、顧客満足度を評価します。その結果に基づき、必要に応じてプロセスの改善や再設計を行います。
ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)におけるチェンジマネジメントの役割
チェンジマネジメントは、変革の人的側面および組織的側面に対応するものであり、BPRにおいて不可欠な要素です。技術やオペレーションの変革が、組織文化や人々の意識、態度の変化と調和しているかどうかを確認するためにも重要です。以下では、チェンジマネジメントがBPRにどのような効果をもたらすかについて説明します。
1. 理解と賛同を促す
チェンジマネジメントは、リーダーシップをはじめ、全ての社員からの賛同とコミットメントを引き出すために重要です。BPRのビジョンや目標、ベネフィットを明確に伝えることで、なぜ変革が必要なのか、何が求められているのかを全員が理解できるようになります。
積極的で目に見える支援を行うスポンサーは、以下のような役割を果たします。
- 組織内で他者を導き、働きかける
- 効果的な意思決定を行う
- プロジェクトマネジメントチームとチェンジマネジメントチームのためにステークホルダーと直接対話する
- 社員とリーダーに影響を与える
Prosci®の調査によると、効果的なスポンサーがいる場合、目標達成の確率は79%に達しますが、効果的でないスポンサーの場合は27%にとどまります。
効果的なスポンサーと目標達成の相関関係
2. 組織の変革準備を整える
チェンジマネジメントは、組織が今後の変革に備えるために、準備状況を評価し、問題が大きくなる前に抵抗を未然に防ぐ役割を果たします。
例えば、BPRチームはProsci 3フェーズプロセスを活用して、カスタマイズされたチェンジマネジメント戦略を策定します。主なフェーズは以下の通りです。
- Phase 1 – Prepare Approach(アプローチの準備):チェンジマネジメントとプロジェクトマネジメントのチームが協力してチェンジマネジメント戦略を策定し、目標、個人への影響、望ましい成果を上げるための必要なステップを明確にします。
- Phase 2 – Manage Change(変革のマネジメント):BPRの変革のために、人々をどう準備させるか、どのようなスキルを身につけさせるかを決定します。パフォーマンスを評価し、受け入れ促進のための戦略を調整します。
Prosci 3フェーズプロセス
- Phase 3 – Sustain Outcomes(成果の持続):変革が組織全体に定着するようなプランを立て、パフォーマンスを評価し、受け入れの状態を確認します。
変革フレームワークを使用して詳細な戦略を作成することで、BPRチームは効果的に準備をし、変革を支持できる重要なステークホルダーや推進者を巻き込むことができます。
3. コンピテンシーとスキルの構築
BPRでは、新しいスキルを必要とする技術やプロセスが導入されることが多く、チェンジマネジメントはそのような移行期において必要な知識や支援を提供します。
例えば、Prosci ADKAR® Modelは、知識と能力のギャップを埋めるためのトレーニングやコーチングに重点を置いています。
Prosci ADKAR Model
社員が必要となる新しいスキルを理解できれば、BPRチームはトレーニングを用意し、能力開発プログラムを展開し、ツールを提供し、フィードバック収集のシステムを導入します。これらのステップを踏むことで、社員が新しい役割や責任を担う準備ができ、変革の成功の可能性が高まります。
4. 移行の管理
チェンジマネジメントは、現行のビジネスプロセスに代えて、BPRの変革プロジェクトで新しいプロセスを導入するための体系的なアプローチを提供します。プロジェクトマネジメントが技術的側面を支える一方で、チェンジマネジメントは人的側面を支えます。
Prosciの方法論を導入すれば、BPRチームが変革の中を進む個人を支援し、移行をスムーズに進めることができます。フェーズごとに移行を実行する戦略を策定し、オペレーション進行中でも混乱を最低限に抑え、サービスの継続が可能となります。
変革の人的側面を効果的に管理することで、BPRの変革プロジェクトの受入れと定着を促進できます。
5. 抵抗の最小化
BPRプロジェクトでは、変革に対する抵抗が見られることがよくあります。なぜなら、社員やステークホルダーたちは、混乱、雇用、会社の方向性に不安を感じるからです。我々の調査では、中間管理職は最も抵抗を示す層となっています。
チェンジマネジメント戦略を通じて、社員を変革のプロセスに巻き込み、継続的かつ明確なコミュニケーションを取り、支援をしていくことで、抵抗を最小限に抑えることが可能です。社員の懸念に対応し、フィードバックを集めることで、BPRチームはプロセスを受け入れるための障壁を取り除き、変革への前向きな姿勢を育むことができます。
6. コミュニケーションの促進
効果的なコミュニケーションによって、なぜ変革が必要なのか、日々の業務や組織にどのように影響するのかを社員が理解できるようになります。Awareness(認知)を構築すると、社員やステークホルダーたちは移行期における自分たちの役割を理解するようになります。また、BPRの進捗状況など、自分たちに影響する情報を得られます。
明確で透明性のあるコミュニケーションを継続的に行うことで、BPRの変革期間中、信頼関係を築き、士気を高めることができます。
7. 文化のシフトを支援
BPRプロジェクトは、しばしば組織文化の変革を伴います。チェンジマネジメントは、リーダーシップの行動やコミュニケーションを通じて、望ましい文化のシフトを促進し、変革を組織文化の一部として定着させます。
BPR導入後に新しいプロセスの効果を測るための指標を定め、反復的なフィードバックをし、組織の目標に沿うよう調整を図るのもその一環です。
8. 組織の構造と役割を調整
BPRにおいては、新しいプロセスをサポートするために、組織の構造や役割を調整する必要があります。チェンジマネジメントは、その調整を支援し、適切なプロセスが組織の構造にフィットするようにします。また、新しい役割や責任を明確に伝えるためにもチェンジマネジメントは役立ちます。
Prosciがビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)の取り組みを支援します
BPRプロジェクトは、業務プロセス、組織構造、組織文化において大規模な変革を伴います。組織には広範な変革を管理するための深い専門知識とリソースが求められるため、時にBPRプロジェクトの実施に苦労します。Prosci(やAtaway)の専門家からの支援を通じて、組織が変革の人的側面を効果的に管理することで、重要な変革プロジェクトの受入れが円滑に進行し、定着する可能性が高まるでしょう。
【無料】チェンジマネジメントにおける役割
チェンジマネジメントの最終的な目的は社員のエンゲージメント力を高め、新たな仕事のやり方を採用するよう鼓舞することで、組織が結果や成果を出すための原動力となることです。変革の対象がプロセス、システム、職務内容、組織体制のいずれであれ(あるいはそのすべてであっても)、個々の社員が日々の行動を変え、新たなやり方で仕事をするようになったときに初めてプロジェクトは成功します。これこそがチェンジマネジメントの本質です。
著者:クェンティン・オーズモンド (Quentin Orsmond)
クェンティン・オーズモンドは、チェンジマネジメントコンサルタントで、Prosciのエグゼクティブインストラクターとして、20年以上の経験があります。彼は、国際金融サービスの分野でチェンジマネジメントのキャリアをスタートさせ、大規模なオペレーションと企業文化の変革を主導しました。現場主義的アプローチで、社内でチェンジマネジメントの担当グループを立ち上げる中心的な役割を果たし、Prosciの方法論を導入しました。クェンティンは、ビジネスアナリスト、プロジェクトマネジメント、オペレーションマネジメント、R&Dの経験も豊富で、顧客へのコーチングにも役立てています。