変革を成功に導く新たな貢献要素に関する調査Research on Emergent Contributors to Successful Change
by Tim Creasey
2023年に実施した「パンデミック後の世界において変革を成功に導く貢献要素の調査」では、新しい貢献要素についての回答も求めました。つまり、私たちのチェンジマネジメント業務に影響を与えつつある要素についてです。これらの新たな貢献要素には、私も非常に興味を持っており、皆さんも同じように感じることでしょう。
Prosci®のチェンジマネジメントのコミュニティではよく知られている、変革を成功に導くための上位7つの貢献要素というものがあります。それらは、私たちのベストプラクティス調査でも20年以上にわたり、安定的にトップに位置してきました。しかし、COVID19のパンデミックの影響で、組織は変革の取り組み方を変えざるを得なくなり、上位の貢献要素に変化が起きました。私たちの最新の調査では、これらの成功を左右する鍵にどこまで迫り、対応していくかが最も注目されるテーマとなっています。
変革を成功に導く新たな貢献要素
調査の結果、これまでの上位の貢献要素に変化が見られました。しかし、詳しく観察すると、変革を成功させる「新たな」貢献要素は、今日の組織にとって全く新しいものもあれば、より重要度が増したものもあることがわかり、それに関するデータの収集と分析を行いました。
テーマごとに調査結果を分析し、回答者のコメントを振り返ると、いくつかの貢献要素は非常に納得のいくものでした。何故ならば、それらはパンデミックによってもたらされた変化、パンデミックがチェンジマネジメントに与えた影響を反映しているからです。
柔軟性とアジリティ
テーマ:アジリティ、「アジャイル」、適応性、レジリエンス、モメンタム、心構え、認知、柔軟、成長する心構え、自信
変革に対する柔軟性とアジリティとは、組織の変革の修練の結果、獲得できるものです。しかし、私たちの行動、システムやプロセス、意思決定に、柔軟性を持たせようとする場合には、どうしたら良いのでしょうか。もちろん、変革プロジェクトにおいて反復的なアプローチを実行する際は「アジャイル型」方法論を採用しますが、私がここで述べているのは、むしろ組織の特性や素性としてのアジリティです。
私がここで注目しているのは、モメンタムという考え方です。
Prosciがものの数か月で、組織を上げてバーチャルトレーニングに転換できたことを振り返る時、これほど困難で、混乱を招く事態には、後にも先にももう遭遇しないのではないかと思われます。未経験の大混乱に直面しても変革をやり遂げたという事実は、今後直面する大きな変革に立ち向かう際の希望とモメンタムになります。
「大規模な変革は可能なのだという認識。人々は以前にも増してスピードの速い変革を目の当たりにしてきた。」
「変革の手法への適応力があるという証明であり、それがパフォーマンスにつながった。」
「新しい状況について考えてみるという意味合いが過去とはもう違う。警戒を緩めない、適応力の高い心構えが必要。」
「コントロールできない外的要因によってプロジェクトの方向転換が迫られても対応できる能力。」
デジタルとテクノロジー
テーマ:テクノロジー、デジタル、AI、IT、オートメーション、サイバーセキュリティ、VR
当然ながら、「デジタルとテクノロジー」は、変革を成功させる新たな貢献要素として必ず上がってくる要素です。テクノロジーのスピード、適用、デジタルリテラシー、デジタルコンフォート、新しいツールに慣れる能力、変革に特化したAIなど、幅広い回答がありました。パンデミックに対応できたこと、多くの人が「即座にリモートワークに対応できた経験」は、私たちがそれまで積み上げてきたデジタル能力の高さを証明しています。
「デジタルの環境に対応できる職場文化が行き渡っている。」
「より柔軟でハイレベルな、かつ、テクノロジーに精通した職場へと変化するべく、変革の戦略を変えていく。」
「中間管理職を教育するための、知識やスキルに簡単にアクセスできるような仕組みを導入する。」
「IT開発者たちも自分たちの生産性や創造性を高めるためにチェンジマネジメントを取り入れたいと言い始めている。」
「『変革』から『トランスフォーメーション』へ『トランスフォーメーション』から『オートメーション』への転換。」
コラボレーションとコネクション
テーマ:結合、コラボレーション、コミットメント、コミュニティ、コネクション、ネットワーク、チームワーク
リモートでコラボレーションせざるを得ない環境にあっても、人々が「つながり」を維持できたことに、私は驚かされました。パンデミックに対応する段階から、未来の仕事の方法を構築する段階へと進むには、優秀なハイブリットチームの確立と活性化が鍵となります。そして、チームワークも以前とは違うものになります。並んで廊下を歩くことのできない、コーヒーを一緒に飲むことのできない、ランチを共にすることのできないチームなのですから、チームワークの基盤を意識的に作る作業がより一層重要になってきます。
「専門知識のあるCMが一人で頑張るというよりも、チェンジマネジメントチームとして仕事をするということ。」
「別の方法でも協働できるということに人々は気づき始めている。」
「繋がりつつ、コミュニケーションを保持しつつ — 去る者日々に疎しの通り、かつてなく孤立しやすい状況になっている。」
成功の測定
テーマ:測定、成功、アカウンタビリティ、成果重視、成功の定義、成功を語る、セクセスストーリー、アウトプット
成功、あるいは成功の測定という観点は、新たな変革の貢献要素の中で最も興味深いものです。Prosciが2021年4月に発表した方法論では、変革の成功の定義、変革の成功に注目する意義が強調されました。これは、現場のプラクティショナーたちからのデータや識見のお陰です。パンデミックは、成果重視を強く推し進めました。この新たな貢献要素は、我々がこれまで提唱してきた成功の定義、成果を測定し評価することの意義を裏付けています。
「目標をはっきり示し、明確なマイルストーンを設定することは、私たちの組織において重要になっている。」
「マネージャーの能力とそのパフォーマンスを管理することの方が、機能やオペレーション云々より重要。」
「変革の件数が増え、内容も複雑化している今、もはや『経験や勘に頼る』ことは不可能となっている。チェンジマネジメントを適用してプロジェクトの成功率を上げよう。」
「人々の受入れの測定方法やダッシュボードを活用すれば、受入れとの技能獲得の客観的なフィードバックとなる。ラインマネージャーの役割と態度の転換。」
ポートフォリオと過飽和状態
テーマ:ポートフォリオ、ペース、優先順位、疲れ、過飽和状態
過飽和状態について見てみましょう。3年間の苦境、延期によって滞っていた変革が数多くあります。今、描く変革のポートフォリオは、それらを再開するに当たり、現状を分析するものです。今後成功する組織というのは、変革のペースとスピードを効果的に管理でき、組織内の人々を置き去りにすることなく、先取りが出来る組織なのです。
「人々は私生活でも本当の変革疲れを抱えており、それが変革への参加意欲に影響しているということを理解してあげることが極めて重要。」
「変革疲れを軽減するための戦略的なチェンジマネジメントの必要性を理解する。つまり、意識的に業務上のあらゆる変革に目を向ける。大規模で人々に混乱を招くような変革をどう導入するかを考える。人々は公私ともに燃え尽き症候群になっている。」
「人々が変革疲れになっていることに気づくべきである。変革の数とペースをより上手に管理すべきだ。」「変革に対するレジリエンス/変革疲れ。利害を共有しているのに、プロジェクト内の横の繋がりが欠如している。」
ウェルネスとメンタルヘルス
テーマ:EI(感情的知性)、メンタルヘルス、マインドフルネス、ウェルビーイング、ウェルネス、ワークライフ
この貢献要素は全く新しいものです。ウェルネスやメンタルヘルスがパンデミック以前は大事ではなかったというのではありません。ただ、人々が職場に出てきて、やるべき業務をする上で、それ程大事だとは認識されていなかったということです。かつて、リーダーたちは「やるべきことを伝えればそれで十分」というようなアプローチで変革に取り組んでいたかも知れません。しかし、組織内で人を優先することの重要性がクローズアップされるようになり、もはや、それを無視することは出来なくなりました。また、組織と変革の人的側面の意義を知った今、人々を成功に導くためのあらゆる議論をする必要性が出てきたのです。
「人々の健全性とメンタルのウェルビーイングは、組織の総合的な健全性とパフォーマンスにとって極めて重要である。」
「第一に、過去に学び、原因を精査し、その影響を評価する。第二に、個人にとって、会社にとって、社会にとって、世界にとって、成功とは何かを探る。第三に、効率と満足度、幸福度の健全なバランスを追求する。」
「メンタルヘルスも新しい人的価値も等しく重要。」
「ワークライフバランス、ヘルスケアの重要性、家族にとっての優先順位。」
ハイブリッドな職場
テーマ:ハイブリッドな職場、仕事の未来、職場復帰、バーチャル
テーマを分類する以前から、最も多くの回答者が言及したテーマがハイブリッドな職場でした。ハイブリッドな働き方は、社内、社外、その両方と、今後も様々な形態で続くでしょう。これから、どのようにハイブリッドな働き方を進めていくのが良いのか、新しい環境下においてより良い実施方法はどのようなものでしょうか。
「企業は以前よりもSWOT分析を行い、社員を会社に戻すべきか、在宅勤務を許可するべきか判断しようとしている。」
「職場復帰のための理由づけを再構築しようとしている。」
「『現場にいる』が指す意味にレベルをつける ― 物理的にそこにいなくてもスタッフと積極的に関わることができる。」
「働き方の変革をどう管理するか。例えば、時に応じて在宅、出勤など。プロジェクトによって、出勤日を変える。」
「柔軟で創造性のあるアプローチを持つ。多くの人が在宅勤務になった際に増えた課題は何か。可能な限り、より人間的な立場に立って、その人の全人格(職場での姿に留まらず)を尊重し、バーチャル/ハイブリッドな世界においてより強固な繋がり、信頼を築く。あらゆる機会を活かし、UXとCMとの強固な繋がりを構築する。」
Prosciによる変革を成功に導く新たな貢献要素の調査
回答された全ての新たな貢献要素を詳細に見ていくと、下の棒グラフのようになりました。上位の貢献要素を回答数や重要度に照らして整理し、それらが影響を及ぼすチェンジマネジメントの側面ごとに分類しました。チェンジマネジメントの側面とは、組織、変革プロジェクト、連携、役割、人です。
下のグラフは、上記で挙げたものを含め、変革を成功に導く新たな貢献要素になっているものを、調査結果から整理分類したものです。今後、組織が成功するには、これらの新しく重要な貢献要素を様々なレベルで念頭におくことです。つまり、組織レベル、変革プロジェクトレベル、相互連携レベル、役割レベル、人的レベルにおいてです。
25年のProsciの調査
Prosciの調査は変革プロジェクトの結果や成果を向上させるのに役立ちます。また、組織が変革の修練を行い、変わりゆく時代において躍進する手助けとなります。我々が、変革を成功に導く貢献要素を調査する際も、チェンジマネジメントにおけるベストプラクティスを編纂する際も、変革を支援する研究をする際も、常に皆さんのニーズを念頭においています。25年で蓄積したProsciの調査結果を過去の分も含めて、折に触れ、参考にしてください。いかに我々が調査のプロセス、研究、デジタルツールを向上させてきたかをご覧ください。
【無料】チェンジマネジメントにおけるベストプラクティス 第12版 エグゼクティブサマリー
調査研究25周年を記念して、Prosciはチェンジマネジメントにおけるベストプラクティス第12版を発表しました。1998年以来、Prosciはチェンジマネジメントのベンチマーク調査のリーダーとして、変革の成果を向上させるための貴重な教訓を提供してきましたが、今回の調査はカスタマイズ可能な洞察を提供し、あなたのチェンジマネジメント業務を飛躍的に進化させるものになりました。このエグゼクティブサマリーは、第12版の調査結果から重要なポイントを抽出しご紹介します。
著者:ティム・クリーシー (Tim Creasey)
ティム・クリーシーは、Prosciのチーフ・イノベーティブ・オフィサーで、世界的に認められたチェンジマネジメントのリーダーです。組織に成果をもたらす変革の人的側面の分野で土台となる最大の知識体系を築き上げました。