
プロジェクトマネジメントと
チェンジマネジメント
―プロジェクトの完了を事業成果につなげる
計画どおりに進めているはずのプロジェクトが、なぜ「人」の問題でつまずくのか。プロジェクトマネージャーの視点から、完了を事業成果につなげるチェンジマネジメントの役割を考えます。
要件定義の打ち合わせに、現場のキーパーソンがなかなか出てこない。
ユーザーテストになって「今のやり方のほうが早い」「この画面では仕事にならない」という声が一気に上がり、追加の要望が積み上がっていく。
結局、稼働日を延期せざるを得なくなる——。
プロジェクトチームがどれだけ綿密に計画を立て、品質・コスト・納期を守ろうと努力しても、こうした「人」に関わる問題でプロジェクトがつまずくことは珍しくありません。また、なんとか予定どおりに稼働できたとしても、管理職マネージャーが以前と同じレポートを求め続け、現場が新旧のシステムで同じ作業を二重に行っていれば、投資に見合った成果は得られません。
こうした問題の多くは、技術や計画の不備ではなく、変革を受け止める側への働きかけが不足していることから生じます。チェンジマネジメントは、関係者が新しい働き方に備え、実際の業務に取り入れられるよう支援する取り組みです。プロジェクトマネージャーにとっては、プロジェクトを計画どおりに進め、導入した仕組みを事業成果につなげるための、もう一つの重要な手段になります。
チェンジマネジメントの基本を知りたい方は、まず「チェンジマネジメントとは」をご覧ください。この記事では、プロジェクトマネージャーの視点から、その役割を考えます。
「人」の問題は、どこから生まれるのか
計画上は順調に見えても、現場には解決されていない課題が残っていることがあります。社員は何が変わるのかを理解していても、それが自分の業務にどう関係するのかまでは納得していないかもしれません。部門の管理職マネージャーも、方針としてはプロジェクトを支持しながら、チームには従来どおりの手順を求め続けることがあります。
このような認識のずれは、複数の部門にまたがるプロジェクトで特に顕著です。プロジェクトチーム内で新しい業務の進め方が合意されていても、実際にそれを使う現場の人たちには、変革を受け止めるための時間と支援が必要です。十分な準備がなければ、プロジェクトマネージャーが同じ判断の理由を何度も説明したり、本来は早い段階で対応できたはずの懸念に追われたりすることになります。
例えば、新しいシステムを活用したレポート作成プロセスを導入したとします。社員はトレーニングを受け、新しいシステムも正しく使えています。しかし管理職マネージャーが従来の表計算ファイルも引き続き求めれば、業務量は減るどころか倍になってしまいます。これはユーザートレーニングだけでは解決できません。日常業務の何を変えるのかを関係者が合意し、業務を指示する管理職マネージャーがその変革をサポートする必要があります。
こうした障壁を早い段階で把握できれば、プロジェクトチームは具体的な対策を検討できます。また、手戻りや遅延、稼働後の成果不足として問題が表面化する前に、どこでリーダーの関与が必要かも明確になります。チェンジマネジメントは、プロジェクトの品質・コスト・納期を守るうえでも役立つ取り組みなのです。
事業成果を左右するのは、現場の仕事がどう変わるか
多くのプロジェクトで期待される成果は、関係者が仕事の進め方を変えることによって実現します。レポートを効果的に活用するためには、管理職マネージャーと社員間で合意された新しい手順を使うことが欠かせません。より良い意思決定には、管理職マネージャーが提供された情報を信頼し、実際の判断に活用する必要があります。テクノロジーは価値を生み出す可能性をつくりますが、その価値を成果に変えるのは現場の行動の変化です。
このことは、プロジェクトの進め方そのものにも表れます。Prosciが世界で実施しているチェンジマネジメントベストプラクティス調査によれば、チェンジマネジメントの実践状況を「非常に優れている」と評価した回答者の88%がプロジェクト目標を達成、または上回ったと報告しています。一方、「不十分」と評価した回答者では13%にとどまりました。また、優れたチェンジマネジメントが行われたプロジェクトは、そうでないプロジェクトに比べて、スケジュールどおりかそれより早く進む可能性が約5倍高いという結果も示されています。[出典1]
プロジェクトマネージャーとして意識したいのは、「本番稼働できる状態か」だけで判断しないことです。組織が新しいやり方で業務を進める準備はできているか、プロジェクト終了後も変化は続くか。こうした視点を持つことで、プロジェクト進行中に直面する課題を、経営層が重視する事業成果と結びつけて考え、説明しやすくなります。
プロジェクトの各段階で確認したい3つの質問
Prosciは、予定どおり・予算内に完了したプロジェクトでも、人が変革を受け入れられなければ成果につながらないと指摘しています。そのうえで、プロジェクトマネジメントとチェンジマネジメントを組み合わせることを勧めています。[出典2]
実務では、新しい手法を一から導入するよりも、すでに行っているプロジェクトの意思決定に、「人」と「現場の仕事」の視点を加えることが大切です。まずは次の3つの質問から始められます。
1. 計画段階:誰の仕事が、どの程度変わるのか?
影響を受ける部門と役割を洗い出し、それぞれにどの程度の調整が必要かを見積もります。例えば承認ルートが変わる部門を早い段階で特定し、要件定義の場で業務への影響を話し合っておけば、ユーザーテストになって要望が噴き出すリスクを減らせます。
2.移行段階:新しい手順で、実際の業務を遂行できるか?
研修の受講完了率は準備状況を知る一つの指標ですが、新しい手順を使って実際の業務をやり遂げられるかどうかは、別に確認すべき点です。ユーザーテストを実際の業務シナリオで行い、稼働判定ではシステムの準備状況に加えて、各部門の業務の準備状況も判断材料に含めます。
3.終結段階:プロジェクト終了後、誰が変革の定着を支えるのか?
プロジェクトチームが次の仕事に移っても成果が続くように、新しい業務の進め方を誰が後押しするのか、引継ぎの段階で合意しておきます。
この取り組みには、プロジェクトチーム以外の協力も必要です。経営層や事業部門のリーダーは変革が必要な理由を説明し、優先順位の衝突を解消できます。部門の管理職マネージャーは、日々の業務の中でチームの移行を支えられます。Prosciの調査では、スポンサーと十分に連携できた回答者の71%がプロジェクト目標を達成、または上回ったのに対し、ほとんど連携できなかった回答者では21%にとどまりました。[出典3]
こうした役割分担を早期に合意しておけば、障壁が生じたときにプロジェクトマネージャーが協力を求める相手が明確になり、定着を組織全体で支えることにつながります。
Prosciは、準備の時間を確保できるよう、プロジェクトの初期段階からチェンジマネジメントを組み込むことを推奨しています。ただし、すでに進行中のプロジェクトでも手遅れではありません。まず現状を把握し、どこで、なぜ抵抗が生じているのかを見極めたうえで、残りの期間の進め方を考えることができます。[出典4]
取り組みの規模や方法は変革の内容に合わせ、通常のプロジェクト運営に組み込むことが重要です。
DX・ERPプロジェクトで求められるチェンジマネジメント
DXやERPのプロジェクトでは、新しいシステムの導入によって部門間の業務の流れが変わると、特有の課題が生じます。ある部門の判断が、別の部門が受け取る情報や、次の承認を行う権限に影響することもあります。こうした変化に人々が対応できるよう準備することは、組織が新しいシステムを使い始めるための準備の一部です。
このようなプロジェクトを担当するプロジェクトマネージャーにとって、チェンジマネジメントは部門間の依存関係を可視化する助けになります。本番稼働時に未解決の課題が問題になる前に、事業部門のリーダーと協力して定着を進める機会をつくれます。具体的な導入課題については「ERP・DXプロジェクトにおけるチェンジマネジメント」で詳しく紹介しています。
まとめ:「人」への働きかけは、プロジェクトを守る手段
要件定義に出てこないキーパーソン、ユーザーテストで噴き出す要望、稼働後も続く二重作業。これらは偶然起きるのではなく、変革を受け止める側への働きかけが足りないときに起きやすい問題です。チェンジマネジメントは、プロジェクトマネージャーの仕事を増やすものではありません。プロジェクトの品質・コスト・納期を守り、その成果を事業成果につなげるための手段です。
プロジェクトチームにチェンジマネジメントの力を育てる
プロジェクトマネージャーは、業務の調整や複雑なプロジェクトの推進に必要な経験を豊富に持っています。チェンジマネジメントを学ぶと、その経験を、人々が仕事の進め方を変える必要がある場面にも生かせるようになります。この記事で紹介した3つの質問も、体系的な方法とツールを使うことで、より確実に実践できます。
Atawayの「Prosciチェンジマネジメント資格認定プログラム」では、3日間を通じて、受講者が自分自身のプロジェクトにチェンジマネジメントの方法論を適用します。研修中に作成したチェンジマネジメントのプランは、そのまま現場に持ち帰って使えます。学んだことを、いま担当しているプロジェクトにすぐ結びつけられるプログラムです。
チームや部門単位での育成をお考えの方には、企業内での開催にも対応しています。学ぶ機会とあわせて、学びを現場で使えるよう支援することで、組織には次のプロジェクトにも生かせる力が蓄積されます。
PMの視点に絞って、チェンジマネジメントをプロジェクトに組み込む方法を学びたい方は、1日で受講できる「プロジェクトマネージャー向けチェンジマネジメントワークショップ」もご覧ください。企業内での開催も承っています。
【期間限定】ERP・DXプロジェクトご担当者向け
Prosciチェンジマネジメント資格認定プログラム
2026年12月16日〜18日|オンライン
ERP・DXプロジェクトに携わるプロジェクトリーダーやチームの皆さんが集まり、実務上の課題を話し合いながら、変革の「人の側面」に対応する方法を学ぶ3日間のプログラムです。受講者は方法論を自分自身のプロジェクトに適用します。
申込締切:2026年12月9日
3日間の受講を決める前に、まずは無料ウェビナーから
ウェビナー1:大規模・複雑なシステム導入で、PMは「人・組織」の課題にどう向き合うべきか?

2026年10月21日 開催
グローバルプロジェクトの実例をもとに、ADKAR® Modelを用いて、個人の変化から全社的な定着まで、プロジェクトマネジメントとチェンジマネジメントをどう連携させるかを紹介します。
ウェビナー2:プロジェクトは順調。それでも、なぜ変革はうまくいかない?~PMが見逃してはいけない「人」のサイン~

2026年10月29日 開催
誰も欠席せず、質問や不満の声も上がらない。一見「静かな」プロジェクトに潜む兆候を取り上げ、国内外の成功例・失敗例からプロジェクトマネージャーが学べることを考えます。
FAQ(よくある質問)
はい。要件定義での調整の難しさ、ユーザーテストでの混乱、稼働後の定着の遅れなど、すでに日々直面している課題に、より意識的かつ体系的に対応できるようになります。関係者がなぜ変革に対応できずにいるのかを理解し、適切な管理職マネージャーやリーダーと連携して前進するために役立ちます。
いいえ。チェンジマネジメントを学ぶ目的は、変革を支える関係者とより効果的に協力できるようになることです。すべてのチェンジマネジメント活動をプロジェクトマネージャー自身が担当する必要はありません。プロジェクトのニーズと支援に関わる人員に応じて、役割を分担します。
現在のプロジェクトが抱える課題と結びつけて説明しましょう。現場の抵抗や定着の遅れが、スケジュールや期待する成果にどう影響しているか、研修で学んだことをどう適用したいか、そのためにどのような支援が必要かを具体的に伝えます。
はい。取り組みは変革の規模や内容に合わせ、普段のプロジェクト運営に組み込めば十分です。小規模なプロジェクトなら、各段階で前述の3つの質問を確認するところから始められます。
次のステップ
ユーザーテストで現場の反発が出ている、本番稼働が近づいている、新しい仕組みの定着が部門によって進んでいない。こうした状況にある場合は、まず現在のプロジェクトについて、この記事で紹介した3つの質問を確認してみてください。体系的な方法を身につけたい方は、11-12月開催の資格認定プログラムをご検討ください。

