サステナビリティのためのチェンジマネジメントChange Management for Sustainability
by Angelo McNeive
サステナビリティ(持続可能性)は、ビジネスにおいて欠かせない重要な要素となっています。シニアリーダーたちは、株主や他のステークホルダーから、持続可能な戦略を開発し導入するように求められるようになっています。組織内で持続可能な役割や活動が継続的に実践されなければ、この目標を達成することはできません。成功するためには、リーダーがこれらの変革に戦略的に取り組み、組織全体で展開していく必要があります。
サステナビリティの実現とチェンジマネジメント
組織がサステナビリティに取り組むことは、複雑で全組織的な変革をもたらし、顧客、社員、ステークホルダーに広範な影響を与えます。このコラムでは、サステナビリティの戦略を効果的に実現するためにチェンジマネジメントがどれほど重要かを探っていきます。特に、サステナビリティのプログラムやプロジェクトを担当する方にとって、チェンジマネジメントは強力な手段となるでしょう。
はじめに、サステナビリティとは何か、組織にどう関係するのかを考えてみましょう。
組織のサステナビリティとは何か?
簡潔に言えば、「サステナビリティ」とは、将来にわたって長期的に継続可能であることです。組織レベルでも、国家レベルでも、ブラントランドの定義によれば、持続可能な開発は「将来の世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」です。
組織の観点から言えば、今日のビジネスの手法が明日の世代のオポチュニティやリソースを脅かさないようにすることが極めて重要です。
組織におけるサステナビリティとは、環境問題だけでなく、経済的、社会的、環境的な責任をもって事業を展開し、地球、人々、繁栄の三つの側面において最低基準を守ることを意味します。この包括的なアプローチは、環境、社会、ガバナンス(ESG)に準拠し、企業の倫理的影響と持続可能な取り組みの実践を総合的に評価する枠組みとなっています。
何が組織のサステナビリティを促進しているのか?
国際的にも、サステナビリティがますます重要視される理由はさまざまです。その背景には、投資家の関心や規制の強化、世界的な報告基準、市場の要求やオポチュニティ、人材不足、地球温暖化への関心などが挙げられます。サステナビリティの向上がもたらす主なベネフィットは以下の通りです。
- 財務パフォーマンスの向上 ― コスト削減、収益強化、イノベーション、新しい市場への参入や投資の呼び込みなど、財務面での改善が期待されます。持続可能な商品やサービスは、成長が著しいアメリカやイギリスの市場に進出するチャンスを提供し、世界各地の既に環境問題や社会貢献度が重視される市場で注目を集めます。サステナビリティに取り組むことはイノベーションを促し、新しい商品、サービス、ビジネスモデル、収益ルートを生み出します。
- 社員の定着と関与の促進、ステークホルダーとの関係強化、ブランド力の向上 ― ミレニアム世代やZ世代を中心に、人々は社会貢献を重視しています。行動にもその傾向が現れ、ESGに貢献し、コミュニティやステークホルダーとの関係を強化するブランドを支持する傾向があります。
- オペレーションの効率性向上 ― ゴミの削減、資源の適正な利用、プロセスの改善、組織レベルでの効率化により、全体的なオペレーションの効率性が向上します。
- リスクマネジメント、レジリエンス、競争力の強化 ― 世界的にサステナビリティが注目される中、企業はペナルティを回避し、混乱を最小限に抑え、評価を維持することに注力しています。状況の変化に適応することで、企業は長期的な成功を目指します。また、外部的要因による混乱を回避したり、「ブラック・スワン理論」の影響を軽減するために、積極的な努力が行われます。
- 世界的な目標や取り組みへの適合 ― 特に、グローバルに事業を展開する大規模な企業にとって、これらの取り組みは重要です。さまざまな地域での事業展開に伴い、各地域の厳格なサステナビリティに関する報告義務に対応する必要があります。特に、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)は厳格であり、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に準拠する必要があります。
こうした市場の変化により、企業は事業方針を見直し、持続可能なオペレーションを導入することが求められています。
サステナビリティプロジェクト導入時の”変革の課題”は何か?
多くのエグゼクティブが、持続可能なビジネスへの移行のベネフィットを認識しています。彼らはサステナビリティやESGに関心を持ち、それに向けた戦略を導入したいと考えていますが、なかなか実行に移せていません。組織によって出発点は異なります。
チェンジマネジメントの観点から言えば、多くの組織にとって成功の鍵は、社員、顧客、ステークホルダーが初期段階でサステナビリティを「受け入れ、活用する」ことにかかっています。また、サステナビリティのプロジェクトや取り組みに関連する技術的なソリューションを彼らが受け入れ、活用する必要があります。これらは変革のプロセスの特徴であり、組織の成果は一人ひとりの個人の変革の結果により実現されます。
サステナビリティの変革に対する抵抗は大きな障害です。その主な原因は、サステナビリティに対する理解や賛同の不足、サステナビリティプロジェクトという未知の要素への不安から来ると考えられます。サステナビリティの成果を測定したり報告したりすることは容易ではなく、新しいシステムやプロセスが必要になるでしょう。既存のビジネスにサステナビリティを組み込むには、オペレーションや戦略の根本的な見直しが必要になるかもしれません。
全ての変革プロジェクトは、人々の働き方に大きな影響を与えます。したがって、明確なベネフィットがあるにもかかわらず、サステナビリティへの道のりには確実に変革の課題が待ち受けています。
サステナビリティに関する変革の課題の例
政府機関が組織的に取り組んだサステナビリティプロジェクトの例を挙げてみましょう。
ある政府機関の部署では、サステナビリティにコミットする姿勢を示すために具体的な行動が必要でした。エネルギー効率が低く、ハイブリッドな職場に適さない古い建物が原因で、組織の排出量の40%が高い光熱費が浪費されていました。職員も職場環境の悪さに疲弊しており、公共交通手段が限られていたため、多くの職員が車通勤を余儀なくされ、関連する費用も問題となっていました。
ニーズに合った、持続可能で公共交通手段が利用しやすい新しい建物に移ることは、組織にとって大きなベネフィットをもたらし、以下の可能性が広がると考えられます。
- エネルギー効率を高め、コストと排出量削減の目標を達成できる
- 職場環境が改善され、優秀な人材をひきつけやすくなる
- 公共機関として、建築環境におけるサステナビリティの先駆的な取り組みとなる
- 職員の通勤手段に選択肢が増え、通勤費用を削減できる
このビジネスケースは説得力がありますが、このサステナビリティの変革のベネフィットは、新しい建物を受け入れ、活用する新旧の職員によって実現されるかどうかに依存します。しかしながら、この変革は職員に大きな影響を与えるでしょう。
Prosciのチェンジインパクトの10の側面モデルを見てみましょう。この政府機関の組織におけるサステナビリティのための変革の例では、どの側面が最も影響を受けるでしょうか。
サステナビリティの変革が直面するバリア(障壁)は、チェンジマネジメントの専門家が対処方法を理解しています。組織文化、変革への受容度、リソースの制約、エグゼクティブのスポンサーシップの欠如、必要なスキルの不足などは、すべて典型的な「変革の人的側面」であり、効果的なチェンジマネジメントを通じて解決できます。
この課題に対処するために、チェンジマネジメントは強力な武器となります。チェンジマネジメントは、個人、チーム、組織を現在の状態から望ましい将来の状態へ移行させるための体系的なアプローチとなっています。サステナビリティの観点からは、組織のビションと目標を、持続可能な業務、および移行期の人的側面の管理に統合することが重要です。
サステナビリティに関する変革プロジェクトをリードする際の8つのヒント
サステナビリティは多面的な概念であり、既に組織内で多くの重要な変革が行われている中で、さらなる変革を求めることは負担となるかもしれません。この問題に対処するためには、組織はサステナビリティの変革をミクロとマクロの両面から見る必要があります。
組織の状況に合ったチェンジマネジメント戦略を設計し、サステナビリティの目標を設定することが重要です。また、サステナビリティをリードする部門横断的なチームを組織する必要があるかも知れません。さらに、サステナビリティとパフォーマンス評価方法を統合したり、認知と賛同を目的として内部コミュニケーションルートを活用したりする必要があります。
組織内でサステナビリティの変革を管理するには、以下のヒントが参考になるでしょう。
1. サステナビリティを有言実行する、効果的なスポンサーとなる
リーダー自身がサステナビリティの実践者であり、積極的で目に見えるスポンサーシップで変革を支援すると、社員やステークホルダーはより一層耳を傾けてくれます。
2. サステナビリティの重要性を説明し、プロジェクトの目的を解説する
サステナビリティの取り組みは、しばしば説得力を欠きます。したがって、変革の始めに環境的、社会的、経済的理由を説明しましょう。調査結果やデータを提示して、サステナビリティの重要性を強調することが重要です。
3. 持続可能なイノベーションを活用し、小さなことから始め、長期的な展望を持つ
急激な変革を求めることは危険です。慎重な設計と小規模な施策の試行から始め、持続可能な習慣を徐々に確立していきましょう。
4. 草の根のアイデアを取り入れるキャンペーンを実施する
業務に詳しい人々の意見を取り入れ、幅広くソリューションを募ります。ボトムアップ型で、リソースを提供し、イノベーションを促進します。変革の影響を受ける人々を活用するのも、彼らの協力を得るための有効な手段となります。
5. 双方向のコミュニケーションを重視し、影響がおよぶ範囲を把握する
仕事の役割や仕事のプロセスが変わることなどの変革の影響に不安を感じる人の声に耳を傾け、誠意をもって問題に対処し、必要に応じてチェンジマネジメントプランを調整しましょう。
6. 進捗状況を示し、成功を祝福する
サステナビリティと変革の進捗状況を示し、達成感を与えて、人々が引き続き関与するよう努めます。変革をリードした人を公に賞賛し、他の人々のやる気を高めます。
7. 変革期間中に一貫して人々を支援する
トレーニングツールやリソースを提供し、人々が新しい役割や業務方法に適応するためのサポートを提供しましょう。移行に困難を抱えている人にコーチングをしましょう。
8. 目的を持った体系的なアプローチでチェンジマネジメントをする
すべての取り組みにおいて、最初からチェンジマネジメントとプロジェクトマネジメントを統合して、ソリューション開発をしましょう。一貫性のある方法論とツールを活用しましょう。サステナビリティの変革プロジェクトを管理するには、チーム内のチェンジマネジメント能力を構築し、投資を最大限に活用しましょう。
サステナビリティのためのチェンジマネジメント
組織のサステナビリティは環境問題だけでなく、社会的責任や経済的繁栄も含まれます。サステナビリティプロジェクトは、人々に大きな影響を与えるため、このような移行を実現するには、強力なリーダーシップと効果的なチェンジマネジメント戦略が必要です。適切なチェンジマネジメントツールとサポートがあれば、組織はサステナビリティの目標を達成できます。
チェンジマネジメントは、目標達成を促進するだけでなく、組織のサステナビリティを実現するために不可欠です。サステナビリティプロジェクトの先頭に立つシニアリーダーとして、あなたはチェンジマネジメントを活用し、サステナビリティを組織の文化とオペレーションの一部に組み込む絶好の機会を得ています。その過程は複雑で困難ですが、組織がより持続可能で、レジリエントな未来を築くためならば、その見返りは大きいでしょう。
【無料】変革力への投資が賢い選択である理由
変革力の構築とは、あなたの組織全体にチェンジマネジメントの考えを行き渡らせ、全ての人と全てのプロジェクトに組織のベネフィットを実現させることです。変革力を構築した組織は、チェンジマネジメントが核となるコンピテンシーであることを理解しており、ビジネスのやり方に重要な役割を果たしています。
著者:アンジェロ・マクニーブ (Angelo McNeive)
アンジェロ・マクニーブは、Prosciのパートナーであるアイルランド、ダブリンのSTEPSTONEコンサルティング社の共同設立者でチェンジプラクティスのトップです。彼は過去20年間、数千人のプロジェクトマネージャーやチェンジマネージャーにトレーニングやアドバイスを提供してきました。質の向上に注力し、組織がより人間性に満ちたものになるよう、チェンジマネジメントとプロジェクトマネジメント能力の向上を支援しています。アンジェロは、公共事業団体、専門サービス、エンジニアリングサービス、金融サービス、エネルギーやその他の業界において、アイルランドやヨーロッパで広く、顧客の支援を行ってきました。彼は、産業心理学のMBAと修士号を持ち、アイルランドの公認心理士であり、CIPD(HR専門家のための公式の協会)の公式会員でもあります。